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気象研究所 研究成果発表会を開催いたしました。(2004年12月8日)

 気象研究所では、去る12月8日、下記のとおり「平成16年度 気象研究所 研究成果発表会」を開催いたしました。お忙しい中、多数のご出席をいただきました。誠にありがとうございます。


日   時:平成16年12月8日(水) 9時30分〜16時45分
場   所:気象研究所 講堂(茨城県つくば市)
問 合 先:気象研究所 企画室 電話 029-853-8546

発表要旨: 発表要旨の一括ダウンロード(LZH圧縮 10MB)
表紙(PDF 480kB)目次(PDF 49kB)裏表紙(PDF 100kB)
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プログラム:
9:30〜 開会挨拶(PDF 44kB)

SESSION 1 防災に貢献するための研究
9:35〜 緊急報告 平成16年(2004年)新潟県中越地震の
          余震分布に見られる二重の地震面(PDF 350kB)

発表者:青木重樹(地震火山研究部)

 平成16年10月23日17時56分頃に新潟県中越地方の深さ約13kmにおいてマグニチュード(M)6.8(以下、震源情報はすべて暫定値を使用)の地震が発生し、新潟県川口町で最大震度7を観測した。また、この地震は、M6クラスの地震が5回発生(11月15日時点)するなど活発な余震活動を伴っている。
 本報告では、高解像度の震源再決定により明らかになった、本震や最大余震によって生じた断層面を表すと考えられる2枚の平行に傾斜する地震面など、余震分布の詳細構造について発表する。

9:55〜 緊急報告 平成16年7月新潟・福島豪雨, 平成16年7月福井豪雨の
          発生要因と雲解像モデルでの再現結果(PDF 1.8MB)

発表者:加藤輝之(予報研究部)

 梅雨期には、梅雨前線帯上で局在化した集中豪雨が多発する。2004年7月13日と18日には新潟・福島と福井地方で集中豪雨が発生し、洪水により多数の家屋が浸水し、多数の死者が出た。両ケースとも、長さ100kmを越える線状の降水システムが12時間以上にわたり停滞し、200mmを越える降水量が観測された。
 本報告では、これらの豪雨の数値シミュレーション結果をもとに、高度2km以下の大量の水蒸気を含んだ空気、高度4〜6kmの非常に乾燥した空気の流入と豪雨の成因との関係について発表する。

10:25〜 緊急報告 平成16年の台風の特徴について(PDF 92kB)

発表者:榊原 均(台風研究部)

 平成16年の台風発生数は25個(11月17日現在)と平年並みだったが、1951年の統計開始以来、過去最多10個の台風(平年値は約3個)が日本へ接近・上陸し、その多くが強い勢力を保っていた。この台風の接近・上陸による大雨、強風、高潮により、全国各地で、死者・行方不明者併せて200名以上、全壊住家600棟以上、床上浸水住家48000棟以上と、近年にない大きな被害を出した。
 本報告では、現在までに明らかになった平成16年の台風の特徴について発表する。

10:45〜 数値モデルによる台風の予測の研究(PDF 289MB)

発表者:上野 充(台風研究部)

 台風による諸災害を防止・軽減するために、より精度の高い台風予報を提供していくことは防災官庁である気象庁の役目の1つである。その台風予報の基本となるのは台風の進路予報と強度予報である。進路予報の精度については、台風移動が主として大規模場に支配されていることから、現業数値予報モデルの予報精度の向上とともに着実に向上してきている。しかし、高い精度の強度予報を実現するためには、モデルの高解像度化、台風と海洋の相互作用の導入、高解像度モデルに見合う台風初期値作成法の開発など、基本的な部分でモデルの改良が必要である。それとともに、台風予報に大きな影響を与える物理過程の不確実性を減らすことや、台風のメカニズムについて理解を深めることも必要である。
 本報告では、こういった点を中心に、台風予報精度向上への貢献を目的として行ってきたモデル開発の総合的な取り組みについて発表する。

11:10〜 平成15年(2003年)十勝沖地震で発生した津波の
          現地調査と数値シミュレーション(PDF 1.6MB)

発表者:長谷川洋平、林 豊 (地震火山研究部)

 昨年9月26日に発生した平成15年(2003年)十勝沖地震では、地震発生直後に津波が北海道や東北地方の太平洋沿岸に押し寄せた。この津波は、震源に近い日高支庁や十勝支庁で最大4m程度の遡上高を記録した。津波の高さは概ね震源域から遠ざかるほど低くなるが、震源域から東に離れた釧路支庁厚岸町でも、局地的に4mを超える高い遡上があったことが地震直後の調査で確認された。
 本報告では、この津波現象についての詳細な現地調査と発生メカニズムに関する数値シミュレーション計算の結果について発表する。

SESSION 2 気候・環境に関する研究
13:00〜 総合報告 地球環境変動の解明をめざして
       −海洋における長期のCO2観測から−(PDF 1.4MB)

発表者:石井雅男(地球化学研究部)

 二酸化炭素(CO2)の排出量を国際社会において実効的に削減し、地球の温暖化を抑制するためには、根拠となる温暖化の将来予測と影響評価の科学的な不確実性を、できる限り低減しなければならない。そのためには、さまざまなCO2排出量のシナリオに基づいて、気候の変化に伴う炭素循環の変化についても評価しながら、大気CO2濃度の動向を推定してゆく必要があり、炭素循環の実態と変動要因を観測によって把握することが不可欠となっている。大気中のCO2濃度は、石油など化石燃料の消費によって、近年、急激に増加している。また海洋の物理的な動きや生態系の営みに伴って変化する大気・海洋間のCO2交換や、陸上の植生と土壌における光合成や呼吸にも、大きな影響を受けている。すなわち、気温、降水、風といった気象要素の変化は、こうした海洋や陸上における炭素の動きへの影響を通じて、大気のCO2濃度にも影響を及ぼしている。
 本報告では、地球温暖化が社会に広く認識される以前の1960年代から気象研究所地球化学研究部と気象庁気候・海洋気象部が続けてきた、観測手法の開発・改良と大気と海洋におけるCO2の調査、炭素循環の理解への貢献について、最新の結果も織り交ぜながら、成果の概要を発表する。

13:40〜 気象研究所海洋データ同化システムによる海洋変動の再現(PDF 1.3MB)

発表者:藤井陽介(海洋研究部)

 海洋データ同化システムとは、海洋数値モデルに観測データの情報を適切に与えることにより、現在、あるいは過去における海洋の状態や変動の様子を再現するシステムである。海洋変動の再現は、エルニーニョ現象などの気候変動メカニズムの解明、海洋資源や環境の保全、船舶など海上交通の効率化のために必要不可欠である。また、より正確に未来の気候や海洋変動を予測するためには、現在の海洋の状態をできるだけ正確に再現すること(正確な予報初期値の作成)が重要である。気象研究所海洋研究部では、気象庁で行っている気候、海況予報の精度向上を目指して、気象研究所海洋データ同化システム(MOVEシステム)の開発を行っている。
 本報告では、まずMOVEシステムの特徴について述べる。次に、同システムを用いた、太平洋赤道域における、海水中の水温、塩分濃度(塩分)の変動と、そのエルニーニョ現象へのインパクトについての研究成果を発表する。さらに、MOVEシステムにより再現された、日本近海の海流の様子についても紹介する。

14:10〜 西部太平洋域の自由対流圏における微量気体の変動(PDF 1.5MB)

発表者:松枝秀和(地球化学研究部)

 大気中における二酸化炭素などの微量気体の変動は、将来の気候変動を引き起こす重要な要因である。産業革命以後、人類活動によって大気微量気体の濃度が急激に増加してきたことが氷床コアの測定などから明らかになってきた。最近では、アジアの経済発展に伴う影響が、大気微量気体組成の変化を大きく加速していることが多くの研究によって指摘されている。従って、アジアの人類活動による大気化学環境の変化を評価することが重要な研究課題の一つになってきた。西部北太平洋域は、アジア大陸から放出される汚染気塊の影響を最も強く受ける地域である。この地域は、強い偏西風帯に位置しており、アジアの影響が自由対流圏を通して急速に地球規模に伝播していると考えられている。しかしながら、自由対流圏の変動に関しては、これまで断片的な観測データしか得られていない。
 本報告では、西部太平洋域の自由対流圏における微量気体変動とそれを支配する要因を解明することを目的として、航空機や富士山頂測候所を利用して系統的な観測データの収集とその詳細な解析について発表する。

14:40〜 温暖化予測情報に関わる基礎的研究(PDF 759kB)

発表者:楠 昌司(気候研究部)

 数値予報モデルによる不確実性には2種類ある。初期条件の違いによる大気の内部変動による不確実性、およびモデルの物理過程等に含まれる不完全さによる不確実性である。前者は、複数の初期条件を用いたアンサンブル実験で評価出来る。後者は、性質の異なる複数のモデルを用いた、いわゆるマルチモデル・アンサンブルで評価できる。
 本報告では、単一のモデルを用いたアンサンブル実験により、大気の内部変動による不確実性の評価について発表する。

15:05〜 日本の地域気候変動予測をめざして(PDF 167kB)

発表者:栗原和夫、小畑 淳(環境・応用気象研究部)

 日本の気候はどのように変動しているか、そして地球温暖化により将来どのように変化するか。これらは日本を維持・発展させるためのビジョンを探る際に不可欠な情報である。気候変動予測の研究には数値モデルを使うが、これまでの全世界を対象とした全球気候モデルでは、計算機性能の制約から分解能が十分ではなく、日本における気候変動を調べることはできなかった。 ことはできなかった。
 本報告では、日本付近の詳細な気候変動を調べることを目的として、環境・応用気象研究部で行ってきた高分解能地域気候モデルの開発、改良、およびその長時間積分により明らかになった、日本の地域ごとの気候変動について述べる。さらに、温暖化を引き起こす大気中の二酸化炭素濃度の増加をより現実に近い形で再現・予測するために開発した炭素循環モデル、および陸面植生モデルBAIM Ver.2について発表する。

SESSION 3 気象業務の基盤に関する研究
15:50〜 水の相変化を考慮した大気境界層の構造の研究
−結露条件下の風洞実験と野外観測−(PDF 336kB)

発表者:木下宣幸、萩野谷 成徳 (物理気象研究部)

 地表面における潜熱輸送は様々な気象現象を引き起こす水循環の源である。このため地表面での潜熱輸送の解明は気象・気候を理解する上で重要な物理過程である。ここでは観測も実験もこれまで十分なされていない、結露条件下での風洞実験および野外観測を行い、地表面での熱収支について検討した。
 本報告では、風洞実験で水蒸気フラックスを渦相関法で直接測定するための2波長式赤外線湿度計の開発とそれを用いた風洞での水蒸気フラックスの測定結果を紹介する。また、野外観測における結露量の測定方法と簡易に実測する装置の製作について述べる。さらに、結露量の実測結果と地表面熱収支式で推定される結露量との比較結果を通じて、夜間結露時における輸送特性を論じる。

16:20〜 マイクロ波分光放射計による水蒸気鉛直分布観測に関する研究(PDF 312kB)

発表者:山陽三(気象衛星・観測システム研究部)

 水蒸気分布とその変化は、雲の生成・消滅や降水現象と密接に関係しており、水蒸気分布観測は、これら機構の解明・予測のために必要であり、予測モデルの高解像化に伴い、時間空間分解能の高い水蒸気分布の観測が重要となってきている。水蒸気の鉛直分布観測はゾンデ、ライダー、長波長レーダーなどで行われているが、時間分解能、観測高度、運用、天候の制約など特性に一長一短があり、改良すべき点がある。
 本報告では、多周波のマイクロ波放射観測から水蒸気の鉛直分布を推定するアルゴリズムの開発と観測装置の製作について発表する。

16:40〜 閉会挨拶

Last update: 2004/12/20 (Mon)