講演プレゼンテーション
- 2016年3月気象研究所_研究成果発表会講演 気候変動予測研究の過去・現在・未来
<< 季節予測はなぜ難しいのか >>
- 2008年4月気象研究所_春の一般公開講演 難問:季節予測
<< 気象研究所における地球温暖化予測研究の歩み >>
主な著作物
<< ジェット気流のモデル再現性によって、夏季東アジア月平均降水量の将来変化予測が変わる話 >>
CMIP5モデルにおける夏季東アジア月平均降水量の将来変化と 現在気候再現性への依存性 (尾瀬智昭)
<< 夏季東アジアの降水量および大気循環の将来変化を月別に説明 >>
気象研究所全球大気モデルを用いた地球温暖化実験における 夏季東アジア月平均降水量の将来変化の特徴 (尾瀬智昭)
<< 夏季平均東アジア降水量の将来変化分布の理解とモデル依存性の説明 >>
高分解能MRI-AGCM実験における夏季東アジアの降水量将来変化とそのモデル依存性 (尾瀬智昭)
高分解能の気候モデルを使った地球温暖化実験は、 地域における温暖化の影響を調べるうえで重要である。 気象研究所の高分解能MRI-AGCM実験では、 YS,KF,ASの3つの異なる積雲対流スキームが使われたが、 東アジアの将来降水量変化を見ると互いにわずかながら異なっていて、 これは地域の気候変化の観点からは無視できない違いである。 具体的には、YS実験では東日本で25年平均の夏季降水量は減少し、 北日本で増加する予測となっている(図a)。 しかし、KF実験やAS実験では、日本の上では顕著な降水量の現象は見られず、 中国中央部から南西日本にかけて降水量は増加する。 KFの場合は、さらに日本の太平洋側でも増加している。
このようなモデル依存性について、 大気の水収支と熱収支の変化を調べたところ、 温暖化による影響の可能性がいろいろと考えられる中で、 北太平洋の西風ジェットの南へのシフト(図d)や ユーラシア大陸上でのアジアモンスーン循環の弱化(図c)に関係した 鉛直流の弱化の分布(図b)に起因することがわかった。
図の説明: MRI-AGCM(YS)実験における夏季(6-8月)東アジア降水量将来変化と関連する図
(a) 東アジアにおける降水量将来変化(mm/day)、 (b) 東アジアにおける500hPa鉛直流の将来変化の降水量換算値(等値線:mm/day)、 水平大気循環の変化に起因する500hPa鉛直流の将来変化の降水量換算値(カラー:mm/day)、
(c) アジア太平洋域における500hPa流線関数の将来変化(等値線:m2/s)、 摂氏温度換算の静的熱エネルギーの現在気候値(カラー:℃)、 (d) アジア太平洋域における500hPa東西風の将来変化(カラー:m/s)、 その現在気候値(等値線:m/s)。
<< 温暖化時の海面水温変化分布が地域の降水量変化に系統的に影響を与えていることを示す例 >>
熱帯太平洋の海面水温変化と関連した温暖化による降水量変化予測の不確定性 (尾瀬智昭・荒川理)
熱帯太平洋海面水温の将来変化が地域の降水量の将 来予測に与える影響について,北半球冬季と夏季に分 けてCMIP3(Coupled Model Intercomparison Project phase 3)実験データを統計的に調査した。現在 気候のエルニーニョ海面水温変動に伴う降水量変動 が,降水量の将来変化予測に関するCMIP3 モデル間 の不確定性として現れることがわかった。
具体的には,エルニーニョ的な海面水温変化を予測 するモデルではラニーニャ的な海面水温変化を示すモ デルに比べて,北半球冬季の降水量が熱帯中央太平 洋・北米南東域・熱帯西部インド洋で多くなる傾向が 見られ,熱帯北西太平洋・熱帯南太平洋・南米熱帯域 で少なくなる傾向が見られる.北半球夏季の場合,熱 帯中央太平洋で多く海洋大陸・中米周辺で少なくなる 傾向が見られる。
図の説明: 将来の赤道太平洋海面水温変化予測と降水量変化予測の対応ー冬季の場合ー
(a) 将来の赤道太平洋海面水温変化がエルニーニョ的な場合の降水量将来変化、(b) ラニーニャ的な場合の降水量将来変化、
(c) (a)と(b)の差、(d) 現在のエルニーニョ時とラニーニャ時の降水量年々変動偏差(観測)。
興味あることには,現在気候において冬季のエル ニーニョ海面水温変動のあとの夏季に遅延して現れる 降水量変動の特徴もまた,将来の冬季にエルニーニョ) 的・ラニーニャ的な海面水温変化を示すモデル間の夏 季降水量変化の差異となって現れる。すなわち,将来 の冬季にエルニーニョ的な海面水温変化を示すモデル はラニーニャ的な海面水温変化を示すモデルに比べ て,将来の夏季降水量は日本の南方および中央太平洋 から東太平洋の赤道南方で多くなり,亜熱帯の北西太 平洋で少なくなる傾向が見られる。
CMIP3モデルの解析によれば,冬季・夏季におけ るエルニーニョ的な太平洋海面水温変化の将来予測値 は,現在気候時の東太平洋赤道周辺における各季節の モデル降水量気候値と関係している.これは,熱帯太 平洋の降水量の現在気候値を再現することが将来予測 にとって重要であることを示唆している。
この研究は、環境省地球環境推進費(S-5-2)による。
<< エルニーニョに対して熱帯西太平洋の降水応答が現実的である気候モデルを作るためには >>
赤道東太平洋域の海面水温の変動に対して現実的な熱帯西太平洋の降水応答を示すCMIP3モデルの特徴 (尾瀬智昭・荒川理)
第3次結合モデル相互比較プロジェクト(CMIP3)マルチモデルデータセットの20世紀再現実験において、赤道東太平洋Nino3海域の海面水温変動に対する熱帯西太平洋の降水応答を数値的なスキルを使って統計的に評価し、現実的な応答を再現しているモデルの特徴を調べた。
Nino3海域の海面水温変動と熱帯西太平洋降水量変動の同時相関係数分布は、6-8月の場合は多くのモデルで高いスキルで再現されているが、12-2月と3-5月の場合はそうではない。それぞれの季節で高いスキルを示すモデルは、Nino3海面水温の変動に対して最も大きな降水量変動が観測されている、日付変更線東側の赤道中央太平洋において、現実的な大きさの降水量変動を再現している。さらには、日付変更線の西側の赤道海域で現実に近い降水量気候値を再現していることが重要であるように見える。
図の説明: 高いスキルのモデルに見られる降水変動分布と降水気候値分布の特徴ー冬季の場合ー
12-2月のNino3海面水温変動とこれに続く6-8月の熱帯西太平洋の降水量変動の間の統計的に有意な遅延関係については、数少ないモデルが高いスキルで再現している。高いスキルを示すモデルは、12-2月のNino3の海面水温変動に続いて6-8月に統計的に見られる熱帯太平洋北西部における海面水温偏差やインド洋における海面水温と降水量の偏差を現実的な大きさで再現している。熱帯西太平洋の降水変動の原因となりうる上記の特徴の再現に加えて、6-8月の赤道中央太平洋の海面水温偏差がその前の12-2月のNino3の海面水温変動と統計的にほぼ無相関であることが、他のモデルと明瞭に区別できる特徴となっている。
いずれの場合も、熱帯西太平洋の降水変動にとって鍵となる海域において、Nino3海面水温の変動による降水量や海面水温の応答を現実と同程度の大きさで再現していることが高いスキルを示すモデルの共通した特徴となっている。
この研究は、環境省地球環境推進費(S-5-2)による。
<< エルニーニョに対する2種類の北半球大気応答と熱帯西太平洋の降水分布 -北半球冬季- >>
2年振動する海面水温と西太平洋パターン (尾瀬智昭)
冬季北半球における、西太平洋パターン(WP)および太平洋・北アメリカパターン(PNA)の出現が、2年振動する南シナ海の海面水温とこれに関係する熱帯西太平洋上の降水量の変動と統計的に次のように関係していることがわかった。
(1)NINO4の海面水温偏差が正(負)で、フィリピンの東で降水が抑えられる(活発化する)時、WP(逆符号のWP)パターンが現れる傾向があり、このことは局所的なハドレー循環の理論と定性的に一致する。
(2)NINO4の海面水温偏差が正(負)で、フィリピンの東で負(正)の降水偏差が小さいか、または西方にシフトしている時、PNA(逆符号のPNA)パターンがWP(逆符号のWP)パターンよりむしろ現れる傾向がある。
(3)上記の熱帯西太平洋での降水量の変動は、南シナ海の海面水温の2年振動を説明する降水量の変動と一致する。
図の説明: NINO4の海面水温偏差が正で、
(a)フィリピンの東で降水が不活発化な冬のエルニーニョ時の500hPa高度偏差の統計平均、
(b)その他の冬のエルニーニョ時の場合。カラー域は95%有意。
<< 夏季アジアモンスーンの季節進行の仕組み -ユーラシア大陸上空はどのようにして昇温するのか- >>
エネルギー収支から見た夏のアジアモンスーン (尾瀬智昭)
大気上端における放射収支と大気のエネルギー収支を解析することにより、エネルギー収支から見た夏のアジアモンスーンの特徴を調べた。(1) 北半球夏期における大陸海洋間および陸上大気の上層下層間の加熱のコントラストと、(2) これらを緩和する、モンスーン循環による熱の移流の過程が、次のようにまとめられる。
(1) 北半球夏期の大気上端の下向き正味放射は、中高緯度の陸上において、海洋上の値を上回る。この海陸の放射のコントラストは、陸上で積雪被覆が概ね消滅した後、高緯度の海上の層雲によって作られる。
鉛直積分した大気中のエネルギー収支で見ると、大気上端での下向き正味放射に似た季節変化 (6月に最大値) が高緯度の陸上の顕熱加熱に見られる。中緯度の陸上では、顕熱加熱が春から初夏にかけて支配的であるが、かわって夏期後半には蒸発が盛んになる。一方、高緯度の海洋には、7月から8月を中心に、大気上端での下向き正味放射以外にそれを上回る熱が大気から流入していると評価される。
夏期モンスーン循環の開始前 (4月) においては、地面近くの顕熱加熱が、ユーラシア大陸上の下層大気、特にハドレー循環および中高緯度の定常波による下降流が見られる乾燥域 (イラン高原や中国北部) の下層大気を暖めている。
(2)夏期モンスーン循環の開始後 (6月) においては、東南アジア域における降水による熱源は、その大きさにおいてユーラシア大陸上における顕熱加熱を圧倒する。この凝結熱にバランスして、上昇流が生じる。
強められた下降流が、中央アジアの上層大気を暖める一方、地面近くの顕熱加熱は北からの冷気移流で相殺される。チベット高原上および中緯度北西太平洋の対流圏の昇温に、強められた南からの暖気移流が寄与している。両地域での凝結熱は、下層の南風の強化に寄与していると想像される。
図の説明: 65Eに沿った大気の熱収支。(左)4月、(右)6月。
上段から下段へ、気温上昇、非断熱加熱、下降流による昇温、南北流による昇温。
<< 夏季アジアモンスーンの季節進行の仕組み -熱源に対する大気応答として見た場合- >>
夏のアジアモンスーン循環と熱源の季節変化 (尾瀬智昭)
観測から得られた帯状平均場と熱源を与えたモデルを用いて、その応答としてのアジアモンスーンの循環、特にその気候学的な季節変化を調べた。結果は次のようにまとめられる。
(1)夏のアジアモンスーン期において、アジアの南域の深い積雲対流に伴う熱源は、チベット高気圧、モンスーントラフならびに、南アジア域における下層循環を形成し、さらにユーラシア大陸西部に下降流をもたらす。中央アジアの地表面付近の熱源もまた、その上層に下降流を形成する。
(2)初夏(6月)に見られる、アジアの南域の深い対流に伴う熱源は、日本の南東に南西の下層風と上昇流を形成する傾向を示す。これらは、アジアの南域に形成される熱的低圧部とともに、東アジアに梅雨帯が形成される背景的な要因になっていると考えられる。中緯度の梅雨帯での降水による熱源は、その南に下層ジェットを形成する。
図の説明: 初夏(6月帯状平均基本場)の6月熱源に対するモデル大気の応答。(左)全熱源の場合、(右)北半球インド洋から熱帯北西太平洋の熱源のみの場合。
上段から下段へ帯状基本場を除いた、200hPa流線関数、下層流線関数、中層鉛直速度(上昇流は負(青色)、下降流は正(橙色))。
(3)初夏(6月)から盛夏(7月)にかけてのアジアモンスーンの季節変化は、北半球全体で気温が上昇し、帯状平均のジェットが北上し弱まることによって特徴づけられる。モデルにおいて帯状平均場のみを6月から7月に変えると、この季節変化の主な特徴が再現される。すなわち、南アジアから東アジア域において、下層ジェットおよび上昇流域は、大陸周辺の海洋から大陸側に移動する。鉛直流のこの変化は、6月から7月にかけての熱源の季節変化と矛盾しない。
(4)盛夏(7月)から晩夏(8月)にかけてのアジアモンスーンの季節変化は、亜熱帯西太平洋の広い範囲で積雲活動が活発化することによって特徴づけられる。モデルにおいて西太平洋の熱源のみを7月から8月に変えると、この太平洋域からインド洋の季節変化の主な特徴が再現される。上層のチベット高気圧および下層の太平洋高気圧が日本付近へ広がることもまた、西太平洋の熱源のみの季節変化で再現される。
(5)6月の帯状平均場と8月の熱源を用いたモデル実験が、気候学的な8月の実験結果と比べられる。気候学的な季節変化から遅れた帯状平均場が、中緯度および亜熱帯域の弱いモンスーン循環および関連する降水偏差と関連していることが暗示される。
<< 冬季エルニーニョに対する熱帯西太平洋の2種類の降水応答と夏季への影響 >>
南シナ海の海面水温 ーアジアモンスーンとENSO系のひとつの指標ー (尾瀬智昭・宋玉寛・鬼頭昭雄)
南シナ海の海面水温の年々変動は、その地理的位置のため、アジアモンスーンとENSOのシステムの指標と認識できる。観測値の統計的解析から、次のような結果が得られた。
(1)北半球冬において、南シナ海の海面水温偏差は、赤道太平洋の海面水温偏差と関係した大規模な風偏差の経度方向の変化に対して、極めて敏感である。この事実は、南シナ海およびその周辺の海面水温偏差が強い2年振動を示すことと関係している。
(2)この大規模な風偏差が東によっているとき(BOタイプ年)、熱帯東太平洋海面水温偏差は、次の春に大きな変化を示す傾向にある。一方、大規模な風偏差が西によっているとき(LFタイプ年)、熱帯東太平洋海面水温偏差は、その年をとおして維持される傾向にある。これに関連したBOタイプ年とLFタイプ年の違いが、前年の夏から冬にかけての熱帯の下層風偏差の中に見られた。
図の説明: 赤道中央太平洋の降水量偏差が正で、
(a)フィリピンの東で降水が不活発化な冬のエルニーニョ時における降水量偏差の統計平均。
(b)その他の冬のエルニーニョ時の場合。カラー域は95%有意。
(3)北半球夏の南シナ海の海面水温偏差は、そこでの下層風偏差によって決まっているように見える。さらに、南シナ海の正の海面水温偏差に対して、南アジアおよび熱帯西太平洋で東風偏差、東アジアで西風偏差が下層で見られる。また、夏の南シナ海の海面水温偏差は、その前の冬の赤道中央太平洋の海面水温偏差と統計的に関係があることが示される。このことは、夏のアジアモンスーンと冬のENSOの位相に関係があることを示す。
<< 春の積雪偏差がその後の季節進行に影響を及ぼすための条件 >>
チベット、東ヨーロッパ、シベリアの積雪偏差が大気に及ぼす影響の比較実験 (尾瀬智昭)
チベット、東ヨーロッパ、シベリアの初春の積雪偏差が、その後の大気に及ぼす影響を比較するため、モデルによるアンサンブル実験をおこなった。チベットの正の積雪偏差は、春から初夏にかけて有意な冷却源をもたらす。東ヨーロッパやシベリアの積雪偏差から、直接には有意な冷却源は作り出されない。
チベットの冷却源は、北半球の春から夏にかけての季節遷移を遅らせる方向の影響を大気に及ぼす。これは、6月の弱いアジアモンスーンとして特徴づけられ、南アジアの弱い下層モンスーンジェット、東南アジアの弱い大規模な上層発散場、北太平洋と北大西洋の負高度場偏差、熱帯太平洋の弱い東西循環が再現された。
チベットの積雪偏差実験の場合に目立つ影響が現れたのは、東ヨーロッパやシベリアと比較して、チベットが次のような条件を持っているためである。
(1)チベットでは、おそらくその高度のため、気候的に融雪速度が遅く、これは初春の積雪正偏差を気候的な融雪季節の終わりまで維持する。
図の説明: チベット(A)、東ヨーロッパ(B)、シベリア域(C)における3月から8月までの、
(左)全大気加熱(顕熱+凝結熱+放射熱)偏差、(右)気候的な融雪速度。
(2)チベットの初春から高い太陽高度と比較的少ない雲量による強い太陽放射は、積雪正偏差のアルベド効果を高める。
(3)チベットの乾いた裸地の地表面熱収支では、顕熱の役割が潜熱よりも大きい。従って、積雪正偏差(被覆)の存在は顕熱の効果を遮断する役目を主に果たす。
(4)チベットの乾いた裸地では、融雪水は土壌に蓄えられる可能性が高い。このため、積雪正偏差の多くは土壌水分偏差として引き継がれる。
(5)気候的にチベット高原の熱源は、アジアモンスーンに影響しうる。
モデル実験のチベットから得られた(1)から(5)の条件は、現実においても積雪正偏差が大気に対して影響を及ぼしうる地域の条件として意味を持つと考えられる。
東ヨーロッパ実験の5月およびシベリア実験の8月にも、大気中に広範囲な応答が見られた。この場合、ユーラシア大陸北部に地表面状態の有意な偏差が伴う。これからの地表面状態偏差は、初期の積雪偏差の融雪に続いて形成される一連の地表面状態偏差と、直接には関係せず、初期の積雪偏差がもつ水および熱が大気に供給された後に、形成されたように見える。
<< アンビル雲(積雲対流からの雲氷放出項のAGCMへの導入)の効果 -現在気候と将来変化- >>
雲水量を予報変数として取り扱ったUCLA大気大循環モデルのテスト実験 (尾瀬智昭)
UCLA (カリフォルニア大学ロサンゼルス校大気科学部)の大気大循環モデルを使って、雲水量(雲水および氷)を予報変数として取り扱った気候モデルをテストした。このために、簡単な雲水に関するプロセスと雲水量に依存した雲の放射特性(反射率、吸収率及び放射率)のパラメタリゼーションが組み込まれた。 積雲対流からの雲水及び氷の放出が、グリッドスケールの凝結による生成とともに雲水量の生成項として取り入れられている。結果は、雲量、惑星短波反射率、外向き長波放射、そして雲水量密度について観測と比較される。現実的な氷の落下速度を用いた氷の消失プロセスは、観測に近い結果を与えた。
積雲対流から放出される氷は、モデルの熱帯域に大規模凝結による巻雲とは異なったかなとこ雲を形成する。かなとこ雲の氷密度は、温度依存性が弱く、低い温度でも、大規模凝結による雲に比べて1桁から2桁高い氷密度を持つ。かなとこ雲は、熱帯域の対流が活発な地域に、 低い外向き長波放射、高い惑星短波反射率と強い短波吸収をもたらす。積雲対流から放出された氷の昇華による湿った大気中で、大規模凝結は活発になり、対流圏上層に正味の加熱を与える。対流圏下層では、氷の昇華及び融解そして雨の蒸発によって、正味の冷却が生じる。
図の説明:(a) 中高緯度でサンプルした雲氷密度(縦軸:log10(g/m3))の気温(横軸:℃)依存性、o印は観測、 (b)熱帯域の場合であるほかは、(a)と同じ。楕円で囲むところはかなとこ雲に相当する。