3. 大気中の放射性物質のモデルによる評価
          
        
      
      
      
        1)放射性物質移流拡散沈着モデル
        
          本研究を進めるにあたり、Kajino et al.(2012)によって開発された領域大気質モデル(Regional Air Quality Model 2; RAQM2)を放射性物質移流拡散モデルとして使用できるよう改変した(Adachi et al., 2013)。
          このモデル(RAQM2)はエアロゾルの粒径分布を対数正規分布関数で仮定して、核生成・凝結・凝集・乾性沈着・グリッドスケールの雲凝結/氷晶核活性化といったエアロゾル力学過程をトリプルモーメント法で記述する独自のエアロゾルモジュールを実装している。
          また、エアロゾル力学過程とそれに続く雲微物理過程(雲内部での降水除去過程)と雲底下での降水除去過程に関する方程式系がすべてモデル(RAQM2)内で記述されている。
        
        
          RAQM2はオフラインモデルであり、気象場(気象物理量の格子点解析値)は外部から与えられる。
          標準的なシミュレーション計算では、気象庁非静力学気象モデル(JMA-NHM;Saito et al., 2007)を水平解像度3km(東日本を215×259グリッドに分割)で実行することによって気象場を作成し、同じ解像度とドメインでRAQM2 の計算も行った。
          この際、JMA-NHMの鉛直解像度50層(最上層は50hPa=高度20km程度)をRAQM2では20層(最上層は高度10km)に変換した。
          JMA-NHM の初期値および境界値(スペクトルナッジング)には気象庁メソ客観解析値(水平解像度5km;時間解像度3時間)を用いた。
          また、異なる気象場の計算法として、JMA-NHM を局所アンサンブル変換カルマンフィルタ(LETKF)データ同化システムに組み込み、気象観測値(アメダス、ラジオゾンデ、海上風等)をデータ同化することによって独自に格子点解析値を作成することも試みた(Sekiyama et al., 2015)。
          福島第一原子力発電所事故による大気汚染シミュレーションをモデル計算のテストケースとして実施する場合には、原子力発電所から放出された 137Csの量としてKatata et al.(2011)の時系列インベントリーを利用した。
          137Cs は全量が硫酸エアロゾルと有機炭素エアロゾルの内部混合粒子に含まれていると仮定し、その137Cs含有粒子は数等価幾何平均の乾燥直径を0.5μm、標準偏差を1.6、粒子密度を1.83g/cm3、吸湿性を0.4としてモデル内の方程式系を計算した。
          137Cs 含有粒子の放出高度はKatata et al.(2011)の推定シナリオに合わせて高度20mから150mの間で時間変化させた。
        
        2)エアロゾルの物理・化学特性に関するモデル感度実験
        
          Kajino(2015)では、1)節で解説したモデルを用いて、2011年3月における原発事故由来の137Csの放出、輸送、沈着過程の再現実験を行った。
          そして、2章で解説した放射性セシウムを含むエアロゾルの物理・化学特性の違いや、複数の異なる気象モデルの計算結果を用いた比較・感度実験を実施した。
          放射性セシウムを運ぶエアロゾルは2種類考慮した:1)節で述べた水溶性のサブミクロン粒子、および2章で述べたAdachi et al.(2013)で発見された非水溶性の粗大粒子である。
        
        
          同じエアロゾル特性や沈着モジュールを用いた計算であっても、用いた気象モデルの違いにより137Csの沈着量は3倍程度変化した。
          またエアロゾル特性の違いによる沈着量の変化は、気象モデルによる違いよりは小さいが、最大で2.1倍程度の変化をもたらした。
          したがって、気象モデルの違い(すなわち力学コアや物理スキームの違い)やエアロゾル微物理特性の違いもまた放射性セシウムの動態モデリングにとって重要なパラメータであることが判明した。
        
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