1)はじめに
福島第一原発事故前に採取された試料で、事故当時分析や前処理の途上にあった試料はつくば市の研究所の実験や測定環境が著しく汚染されたために、 その汚染を極力避け、濃縮操作・測定自体を汚染度の低い関西の大阪大学や(株)環境総合テクノスにおいて実施した。 そのデータの分析結果をここでは報告する。
2)主な研究成果
2.1) 137Csのデータ
Table1に福島第一原発事故前につくばと榛名山で観測された137Csの月間降下量を示す。 137Csの降下量は、福島第一原発事故によって134Csがほぼ1:1の放射能比で放出されたということに基づき、試料に含まれる137Cs放射能はグローバルフォールアウトと原発事故の両者から由来するが、 134Csは原発事故からのみ由来したと考え、差分放射能を求めた。 この差分放射能を減衰補正することで、グローバルフォールアウト由来の137Cs放射能を得る。 しかし、差分放射能の値はほとんどの試料において僅かな数値であり、不確実なデータとなったことからND(検出限界値以下)と判断せざるを得なかった。 一部、差分放射能値が有為となった試料がある(榛名山1010、同1011、同1012)。 しかしながら、榛名山1010の値は1Bq/m2/月を超えており、事故以前の水準を超えている。 試料の保管、輸送、その後の操作では細心の注意を払って、厳重に汚染管理に努めたものの、汚染を受けている可能性も否定できない。榛名山1011、同1012については、汚染を受けなかったと判断される。
2.2) 90Srのデータ
つくば市での90Srの月間降下量については、Table2に掲げるとおりである。 90Srの汚染水準は放射性Csに比べ何桁も小さいことから、細心の注意を払った汚染管理によって充分に事故の影響を避けることができた。 しかし、残念ながら、2011年1月の降下量はNDとなって定量化できていない。引き続き値を出せないか、再測定を行っていく。
3)まとめ
以上のように、大変残念ではあるが、福島第一原発事故による実験・測定環境の汚染により、気象研究所の月間降下量時系列データに欠測が発生したことを報告する。 試料の前処理・化学分析・放射能測定に協力いただいた大阪大学、(株)環境総合テクノス、(株)アトックスと関係者各位に感謝する。