気象研究所では1995年からドイツ連邦放射線防護庁(BfS)と連携して、地表大気中の85Kr放射能を継続的に測定してきた。 2001年に気象研究所はわが国で初めて、主にBfSメソッド(活性炭冷却捕集およびガスクロ分離による気体計数システム)に基づいた 連続監視のための大気中85Krの測定システムを開発した。その後、このシステムは2006年3月までつくばやその他国内の数ヶ所において、 地表大気中85Kr放射能の監視に使用された。
気象研での分析のために同時に収集された試料は、分析と品質保証のためにBfSの研究所に送られた。 2006年には気象研究所と(財)日本分析センターが協力して、既存の気象研システムに基づく新しい 実用的な85Kr測定システムの開発に取りかかった。その目的とするところは、わが国の85Kr監視システムの構築と、 85Kr測定に関する技術文書の発行であった。気象研及び日本分析センターに構築された新しい85Kr測定システム に関する詳細な説明、及び運用に必要な技術的手順を示した技術報告を2008年に出版した。(気象研究所技術報告第54号)
本章では、気象研究所技術報告第54号で報告した内容の概要を示す。気象研究所は1995年から 大気中の85Kr放射能濃度を継続的に測定してきた。1995年から2006年までつくばで実施した85Krの測定結果を 表1と図1に示す。1996年1月のバックグラウンド・レベルの85Kr放射能濃度は1.21 Bq m-3であったが、 2006年1月には1.51 Bq m-3に増加した。つくばにおけるバックグラウンド・レベルの85Kr放射能濃度の1年毎の 増加率は1995年から2006年の間に0.03 Bq m-3 yr-1であった。2001年12月の85Krの地球規模の大気 インベントリーもまた、つくばで測定した85Kr放射能濃度を使って5 EBq m-3と見積もられた。
また、図2に示すように、つくばでの連続測定記録から、北半球の中緯度地方における地表空気中のバックグラウンド・レベルの85Kr放射能濃度、 及び東海村の核燃料再処理工場運転の影響による濃度増加が明瞭に読み取れる。
〔掲載論文〕
なし
〔関連出版物〕
青山道夫, 藤井憲治, 廣瀬勝己, 五十嵐康人, 磯貝啓介, 新田済, Hartmut Sartorius, Clemens Schlosser, Wolfgang Weiss, 日本における活性炭冷却捕集およびガスクロ分離による気体計数システムによる85Krの測定システムの構築および1995年から2006年の測定結果, 気象研究所技術報告, 第54号, 2008. (http://www.mri-jma.go.jp/Publish/Technical/DATA/VOL_54/54.html)