4.環境中のトリチウムの挙動に関する研究

 

トリチウム(T)は、半減期がおよそ10年の水素の放射性同位体であり、環境中の主な化学形は水(HTO)であるが、水素ガス(HT)としても存在している。トリチウムの発生源は、天然の核反応の他、核実験や原子力施設などである。地球化学研究部においては、トリチウムの環境中における動態を明らかにする目的で、東京(19803月以前)及びつくば(19804月以降)における降水・水蒸気、全国の河川水、北太平洋西部海域における海水中のHTO濃度測定をこれまで行っている。

下図は1963年から2003年までの降水中のトリチウム年間降下量の経年変化を示している。また、表には1991年から2003年までの降水中のトリチウム濃度および降下量を示す。196162年に行われた大気圏核実験のためトリチウムの多くは成層圏に放出された。結果として1963年の降下量は約150000Bq m-2で最大となり、見かけの滞留時間1.9年で1967年まで減少した。これは他の放射性核種の成層圏滞留時間、例えば90Sr1.4年と比較すると若干長い時間であり、地球表層の水循環を反映した結果である。1968年以降は降水中のトリチウム年間降下量は、中国の一連の核実験のために増減を繰り返しながら緩やかに減少した。こうした成層圏に由来するトリチウムの降下量は、前年に核実験が行われない限り年の前半に多く、後半では前半の1/3になっている。1980年を最後に大気圏への大規模なトリチウムの放出はなくなり、そのレベルは天然の核反応に由来するものに近くなり現在に至っている。その降下量は1990年代では8001900Bq m-2 year-1である。また、最近では原子力施設からの放出量の減少と太陽活動による影響(黒点数の極大期にあたり、天然の核反応に由来するものが減少)を反映しているとみられる降下量の減少が観測されている。2000年代に入ってからは、その降下量は約600-700 Bq m-2 year-1 程度まで減少し、観測開始以来最も少なくなっている。

トリチウムは137Cs90Srとは異なり、核分裂による生成よりも核融合による生成の方が何桁も多い。このため1986426日に発生した旧ソ連のチェルノブイリ原子力発電所の事故に由来する影響は認められなかった。

 

 

東京(19803月まで)及びつくば(19804月~2003年)

における降水中のトリチウム年間降下量の経年変化