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体積歪計観測網による東海地震の前兆すべりの検知能力

(小林昭夫, 2000, 験震時報, 63, 17-33.)


 これも気象庁地震予知情報課在籍時に、当時の吉田明夫地震予知情報課長と一緒に色々な調査を行った課題の一つ。 地震防災対策強化地域判定会委員打ち合わせ会で何度か報告したものをとりまとめたもの。 ここで前兆すべりの時間経過として二つの近似曲線を使用したが、その後10年以上も気象庁の訓練データなどで前兆すべりの時間経過のモデルとして使用されているようだ。

要旨
 気象庁では東海地域の16地点に体積歪計を設置し,観測を行っている.体積歪計は東海の観測網の中で中心的な役割を担っており,これらのデータは気象庁において24時間体制で監視されている.東海地震の前にはゆっくりしたすべりによる地殻変動が生じ,それを体積歪計によって検出することができると期待されている.地震防災対策強化地域判定会招集要請の基準の一つは,3箇所の体積歪計で有意な変化が観測された場合となっている.それゆえ,東海監視にとって,体積歪計による前兆的な地殻変動の検知能力を前もって明らかにしておくことは極めて重要である.
 本研究では,すべりの始まる箇所については,松村(1996)による推定固着域の中あるいはその周辺とし,また,すべりの加速の割合については,1944年東南海地震の前に観測された地殻変動の時間的推移(Mogi,1984)を基にしたものと,東海地震を想定した地震サイクルに関する数値シミュレーション結果(加藤・平澤,1996)に基づくものとの二つの場合について体積歪計観測網の検知能力を考察した.検知力は個々の体積歪計がどのくらいの小さな歪変化まで識別できるかに依っている.これについては小林・松森(1999)による体積歪計のノイズレベル調査結果を用いた.
 この結果,M6.5相当のすべりを想定したとき,すべりが推定固着域の南東部の海岸付近で生じた場合には,地震発生の24時間前にすべりの発生を捉えることが可能であることをが明らかになった.反面,すべりが推定固着域の北西部やその延長上で生じた場合には,検知から地震発生までにほとんど時間がないということもあり得るという結果も得られた.一方,すべりが発生して初期の段階では,その発生場所に近い観測点,もしくはノイズレベルの低い観測点においてのみ有意な変化が現れて,ある程度の時間そうした状況が続くという孤立的変化の現れる観測点もあることがわかった.しかし,すべりの大きさがM6.0相当以上になれば,複数の観測点で有意な変化として検出できるとみられる.
 本調査は媒質が弾性的であるという仮定の下に計算を行っているが,この結果は,プレート境界面上でのすべりの発生を監視する業務の構築にあたって有用な基礎的資料になると考える.

画像

図 すべりの時間経過
 前兆すべりの時間経過として、(1)Mogi(1984)によって推定された1944年東南海地震直前の傾斜変化の時間経過を指数関数で近似したもの、(2)加藤・平澤(1996)の数値シミュレーション結果に基づく直前の歪変化量の時間経過を地震発生までの時間の逆数で近似したものの二つを用いた。