あとがき 〜科学的不確実性について〜
この小冊子では、地球温暖化に関する観測事実や将来予測について基本的な知識を駆け足で見てきました。詳しく紹介できなかったこともたくさんありますが、なかでも重要なのが科学的な不確実性です。気候システムはたいへんに複雑な仕組みになっており、科学の進歩によって急速に理解が深まりつつあるものの、それでもよく分かっていないことが多数残されています。
第3章で解説したように気候モデルを使って将来の気候変化のシミュレーションをおこなうことが可能ですが、科学的不確実性のため、予測結果に誤差が含まれることは避けられません。人類が二酸化炭素等の排出量をどれほど大幅に削減できるかどうかで将来の温室効果ガスの濃度は大きく変化しますが、温室効果ガス濃度について同じ設定を用いた場合でも気候モデルの中での雲の表現方法を変えると気温上昇の大きさが変わってしまうことが知られています。他にも不確実性をもたらす要因として、地球温暖化の進行にともない自然界での二酸化炭素の排出量や吸収量が変化することによって大気中の二酸化炭素濃度が変化する効果や、大規模な火山噴火、太陽活動の変動による影響などが考えられます。
気象研究所をはじめとする世界中の研究機関では、気候変化の予測について不確実性の幅がどの程度あるのかを明らかにし、また、可能な限り不確実性を減らすよう努力しています。
気象庁の観測所のある南鳥島。大気中の二酸化炭素濃度を観測している地点の一つ。(撮影:気象研究所気候研究部 山崎明宏)