3-2 温室効果ガス排出シナリオ  

 地球温暖化にともなう将来の気候変化予測を行うにあたり、温室効果ガスの排出量予測値が必要です。そのためには人口、経済、エネルギー需給、石油に替わるエネルギー技術開発など社会・経済的な側面の将来予測の検討が必要で、IPCC は社会学者と経済学者の協力を得て、温室効果ガスの排出の将来の見通しをSRES(Special Report on Emissions Scenarios)シナリオとして2000年に示しました。
 SRES シナリオは多数(30通り以上)から成りますが、大きくは4 種類のグループに分類されます。A1 グループは、高い経済成長と地域格差の縮小を仮定しています。A2 グループは、高い経済成長と地域の独自性を仮定しています。B1 グループは、環境を重視した持続可能な経済成長と地域格差の縮小を仮定しています。そしてB2 グループは、環境を重視した持続可能な経済成長と地域の独自性を仮定しています。ただし、いずれのシナリオでも、特に地球温暖化の抑制を目的とした政策はとらない、という設定です。
 図3-3(a)に六つの代表的なSRES シナリオによる二酸化炭素排出量予測値を示します。21世紀後半になるとシナリオ間の違いが非常に大きくなります。ところで、大気中に排出された二酸化炭素は海洋と陸域生態系に吸収されるため、そのすべてが大気中に残るわけではありません。このため、大気中の二酸化炭素濃度は、二酸化炭素の吸収・放出過程の計算に特化した「炭素循環モデル」を使って計算します。図3-3(b)は炭素循環モデルによって計算された二酸化炭素濃度の変化予測です。同様の手法により、メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)などの温室効果ガスの大気中濃度も計算します。その計算結果を前節で紹介した気候モデルに強制力として入力し、気温や降水量などの将来予測を行います。なお、近年の気候モデル開発の進展により、一部の研究機関では、気候モデルの中に炭素循環モデルの過程を組み込んで将来予測を行っています。気温や降水量の変化に伴い、海洋や陸域生態系の二酸化炭素吸収量が変わり得るためです。

図3-3
図3-3 温暖化予測で用いられた(a)人間活動にともなう二酸化炭素の排出シナリオ、(b)炭素循環モデルで計算された大気中の二酸化炭素濃度。SRESシナリオの詳細は本文を参照。A1B はエネルギー源のバランスを、A1T は非化石エネルギー源を、A1FI は化石エネルギー源を重視している。IS92aはIPCC によって1992 年に開発されたシナリオの一つで、二酸化炭素濃度がほぼ年率1%複利で増加することに対応する。(気象庁, 2005)