3-1 気候モデル  
 この解説の冒頭(1-1節)で述べたように、気候システムは複雑です。その将来の変化の予測には気候システムを表現することができる気候モデルを使用します。気候モデルとは、気候を構成する大気、海洋等の中で起こることを、物理法則に従って定式化し、計算機(コンピュータ)の中で擬似的な地球を再現しようとする計算プログラムのことです。気候モデルでは、世界全体を網の目に区切り、その格子点ごとに気温、風、水蒸気の時間変化を物理法則(流体力学、放射による加熱や冷却、水の相変化注1)など)に従って計算することにより、将来の気候変化を予測します(図3-1)。日々の天気も基本的にはこれと同じ手法で予測していますが、気候の将来予測は100年を超える長期間を対象としますので、熱を長期間蓄積する海洋の流れや、海洋と大気の熱、水、運動量注2)のやりとりが重要となってきます。このため、これらをうまくコンピュータの中で再現することが必要で、これまで多くの力が注がれてきました。

 この気候モデルを使って、人間活動に伴う温室効果ガスや微粒子(エーロゾル)の濃度を変化させると、将来の人為起源の気候変化が予測できます。ところで、観測記録によれば20世紀に既に温暖化の傾向が認められますが、このような変動は気候モデルの中で再現できるでしょうか? それを確認したものを図3-2に示します。 自然起源と人為起源の両方の要因を考慮にいれてシミュレーションすると、実際の気温変化に近い結果を得ることができました。一方、自然起源のみの要因では20世紀後半の気温変化は再現できませんでした。このことから、20世紀後半の気温上昇は人間活動の結果として引き起こされたと言うことができます。また、気候モデルにより20世紀の気候変化が良く再現されましたから、将来の気候変化を予測する能力もかなりあると考えられます。

注1) 水蒸気が凝結して雲や雨または雪となりその時に熱を出したり、逆に雲粒や雨が蒸発しその時の気化熱によって周りの空気を冷やしたりする。
注2) 風の力により海に流れが生じることで大気の運動量が海洋に与えられる。


図3-1
図3-1 気候モデルの計算格子のイメージ図(気象庁)。このような格子の各点で複雑な力学法則や物理過程の計算を行っている。

図3-2
図3-2 黒い線は、観測された気温変化、色のついた帯は気候モデルのシミュレーション結果で誤差幅を含めて示している。青色の帯は自然の要因のみ、赤色の帯は自然起源の要因と人為起源の要因の両方を考慮してシミュレーションした結果。(気象庁, 2008)