2-4 極端現象(異常現象)

 「異常気象」とは、一般的には過去に経験した気候状態から大きく外れた気象を意味し、大雨や強風などの短時間の激しい気象から、数か月も続く干ばつ、冷夏などの気候異常を含みます。1-1節で触れたように、地球の気候状態は変動するのがむしろ自然であり、「異常」「正常」を何によって定義するかは、その目的に応じて決まります。ここでは、対象とする現象の値の上位もしくは下位の5%未満、10%未満を「異常」とみなし、その出現頻度の長期変化について示します。IPCCのレポート中では、「異常気象」をextreme event(極端な現象)と表現していることから、本節および3-6節の一部では極端な…という表現を使用しています。

 図2-7に極端な気温の発現頻度の変化を示します。極端な気温の指標として、日最低気温の下位10%を寒い夜、日最高気温の下位10%を寒い日、日最低気温の上位10%を暑い夜、日最高気温の上位10%を暑い日と定義しています。過去約50 年では、極端な気温の発生頻度は世界的に変化しています。寒い日、寒い夜の発生頻度は減少する一方、暑い日、暑い夜の発生頻度は増加しています。特に、寒い夜の減少と暑い夜の増加傾向が明瞭となっています。

 図2-8は大雨の指標として、「大雨日(日降水量の上位5%)の降水量の総降水量に占める割合」に注目し、その長期変化を見たものです。過去約50年では、観測データのある陸上の多くの地域で増加する傾向にあり、特に近年に明瞭です。また、総降水量が減少している地域でも大雨頻度が増加する傾向にあり、これは昇温や観測された大気中の水蒸気量の増加から推測される傾向と整合しています。  そのほか、観測データから得られた極端な現象の変化傾向、およびその可能性の高さについて表2-2にまとめて示します。これらの変化の一部は人間活動による地球温暖化と関係がある可能性が高いと考えられています。


図2-7
図2-7 極端な気温の発現頻度の変化傾向。単位は[変化日数/10 年]。1951〜2003 年のデータをもとに解析。1961〜1990 年の値をもとに、(a)日最低気温の下位10%を寒い夜、(b)日最高気温の下位10%を寒い日、(c)日最低気温の上位10%を暑い夜、(d)日最高気温の上位10%を暑い日とそれぞれ定義している。1999 年までのデータがあり、データ期間が40 年以上存在する地域について計算している。変化傾向が確からしい地域(統計的有意性が高い地域)を黒線で囲んでいる。また、(a)〜(d)のグラフはそれら発現頻度の時系列。地球平均の平年差(1961〜1990 年を基準)を時系列として表した。十年規模の変化を見るために平滑化したものを赤線で示す。(IPCC, 2007)


図2-8
図2-8 上図は非常に降水量の多い日(日降水量の上位5%)による年降水量への寄与について1951〜2003年の期間に見られる変化傾向。単位は[変化率/10年]。下図は非常に降水量の多い日の年降水量への寄与率の世界平均値の時系列(1961〜1990 年を基準とした偏差)。十年規模の変化を見るために平滑化したものを赤線で示す。上図・下図とも、1999 年までのデータがあり、データ期間が40 年以上存在する地域のみを計算の対象としている。(気象庁, 2008)


表2-2 極端な気象現象のうち20 世紀後半の観測から変化傾向が見られたものについての最近の傾向とその可能性の高さ。(気象庁, 2007a)
現象及び傾向20世紀後半(主に1960年以降)に
起こった可能性
ほとんどの陸域で
寒い日や寒い夜の減少と昇温
可能性が非常に高い
ほとんどの陸域で
暑い日や暑い夜の増加と昇温
可能性が非常に高い
ほとんどの陸域で継続的な高温/熱波の頻度の増加可能性が高い
ほとんどの地域で大雨の頻度
(もしくは降水量に占める大雨による降水量の割合)
の増加
可能性が高い
干ばつの影響を受ける地域の増加多くの地域で1970年代以降
可能性が高い
強い熱帯低気圧の活動の増加いくつかの地域で1970年代以降
可能性が高い