1-2 温室効果

  地球の気候の駆動源は太陽エネルギーであり、太陽は比較的短い波長帯(主に可視光線、近赤外線、紫外線)でエネルギーを放射しています。太陽から届いたエネルギーのうち、約3割は雲や地表面で反射されて、残りの約7割が地球を暖めます。そのエネルギーは、地球全体に一様にならすと1平方メートルあたり235ワット(235W/m2)です。温度をもつあらゆる物体はエネルギーを放射するので、地球から宇宙空間へもエネルギーを放射しています。ただし、地球は太陽よりもずっと温度が低いので、長い波長帯(主に赤外線)でエネルギーを放射します(図1-2)。長期間(1年程度以上)にわたって平均すると、太陽から地球に入ってくるエネルギーと地球から宇宙空間へ出ていくエネルギーはほぼ等しくなっており、およそ235W/m2のエネルギーが地球から宇宙へ出ています(もし入ってくるエネルギーと出て行くエネルギーがつり合っていないと、地球の温度が一方的に温まったり冷えていったりすることになります)。ここで、エネルギーと温度の関係式を用いると、235W/m2を放射する物体の温度は氷点下19℃くらいと見積もられます。この値は実際の地球表面の平均温度よりずっと低温です。実際の世界平均地上気温はおよそ14℃ですから、約33℃のくい違いがあります。この原因は、ここでは地球大気の役割を考慮していないためです。

 地球大気中には、温室効果ガスとよばれる気体がわずかに含まれています。この気体は地球表面から放射される赤外線を吸収するが、太陽から放射される可視光は吸収しにくいという性質があり、陸や海から放射された赤外線エネルギーの多くが、これら気体や雲に吸収され、その後再び地球へ向けて放射されています。このため、太陽から直接受け取るエネルギーよりもさらに多くのエネルギーを地球表面は受け取ることになります。これを一般に「温室効果」と言います。このような自然のメカニズムにより、地球表面が今日のような水が液体で存在できる温度に保たれ、多様な生物の存在が可能になっています。

 代表的な温室効果ガスは、水蒸気と二酸化炭素です。あまり知られていませんが、そのほか、メタン、一酸化二窒素、オゾン、ハロカーボン類(いわゆるフロンガスなど)にも温室効果があります。ここで強調しておきたいことは、これら温室効果ガスをすべて加えても大気中の気体の1%程度の濃度しかなく、大気中の多くを占める窒素(大気中の78%)と酸素(21%)はほとんど温室効果をもたないという点です。つまり、今日の温暖な気候はわずかな量の温室効果ガスによって実現されています。ですから、人間活動による温室効果ガス(主に二酸化炭素)の排出が、地球全体の気温を上昇させるほどの影響力をもち得るのです。

 ここでは地球全体の平均で温室効果について考えました。実際は、低緯度で太陽エネルギーを多く受け取り、それが高緯度へエネルギーを運ぶ大気や海洋の循環を作り出しています。エネルギーの出入りに変化があるとこれら循環にも影響が生じます。また、海洋が暖められると大気中に含まれる水蒸気が増加しますが、この水蒸気が温室効果をもつため、さらに気温を上昇させることになります。

図1-2
図1-2 温室効果の概念図(気象庁,2007b)