5.日本海における137Cs(セシウム-137)及び

239,240Pu(プルトニウム-239240)の時間的変動

 

 1993-1994年における人為的起源を持つ放射性核種、137Cs及び239,240Puの日本海表面水中の濃度は,それぞれ2.7-3.8 Bq m-3及び1.3-8.0 mBq m-3の範囲にあり、北太平洋における濃度と同じオーダーであった。時系列データを見ると、放射性廃棄物の大規模な投棄とチェルノブイリ・フォールアウトの直後にあたる1986年及び1987年に137Csの増大がみられた。表面海水中における137Csのみかけの半減期を求めたところ、上述の濃度上昇分にあたるexcess 137Csに対しては約3年、より長期的なトレンドに対しては約16年であった。前者は日本海に流入した対馬暖流水が日本海の表層で混合するために希釈されてゆく現象に対応する時間スケール、後者は外海との表層水の交換による輸送に対応する時間スケールと考えることができる。さらに海域に分けて137Cs濃度を整理したところ、深層水の137Cs濃度が他の海域に比べて高いウラジオストック沖で日本海固有水が形成していることがわかった。また、日本海表面水中の239,240Pu濃度については、過去20年にわたるデータからは構造的な変動はとらえられず、むしろ深層に入ったPuの表層への再生の速さを反映しているようであった。Puの鉛直分布は北太平洋と同様、中層に極大を示す。ただし、その極大は北太平洋より顕著ではない。さらに、深海のPu濃度には海底地形の影響が見られる。

 チェルノブイリ・フォールアウトには134Csが一定の割合で含まれていたことが陸上の観測から知られているので、1986年及び1987年のデータにより134Cs濃度を用いてチェルノブイリ事故起源の137Csを評価した。その解析結果によると、近年の日本海の水柱における放射能の大半は、過去の大気圏核実験等に由来する全球的フォールアウトによってもたらされたもので、一部がチェルノブイリ・フォールアウトによるものと考えられることが分かった。なお、ロシアによる放射性廃棄物の大規模な投棄に対応する明瞭なシグナルは観察されなかった。

 

〔掲載論文〕(Full texts are not available online, please contact the authors for reprints.)

Hirose, K., T. Miyao, M. Aoyama, Y. Igarashi, Plutonium isotopes in the Sea Japan, Journal of Radioanalytical and Nuclear Chemistry, 252(2), 293-299, 2002.

Miyao. T, K. Hirose, M. Aoyama, Y. Igarashi, Trace of the recent deep water formation in the Japan Sea deduced from historical 137Cs data, Geophys. Res. Lett., 27, 22, 3731-3734, 2000. (Html)

Statistics of decay corrected 137Cs data (as of Jan. 1, 1995) in the 1500-3000m layer

(upper: average, middle: standard deviation, lower: number of data).