平成15年度科学技術振興調整費先導的研究等の推進


「21世紀のアジアの水資源変動予測」 研究実施計画

研究代表者: 鬼頭昭雄(国土交通省気象庁気象研究所気候研究部)

 

I 研究の全体計画

1. 研究の趣旨

水は地域により資源としての過不足があり、世界的には人口増加が水資源への圧力となり 飲料水や農・工業用水間の争奪は激しくなっている。このことは世界人口の6割以上を占める アジアではより深刻な問題であり、社会経済に与える影響が日本に及ぶとも考えられる。 また地球温暖化等の気候変動により、地域によっては水不足がさらに悪化すると見込まれる。

しかしながら水資源の将来予測への気候変動要因の取り入れは不十分であり、水資源評価の ために信頼できる降水量・水循環の将来予測が緊急に求められている。 現在の気候モデルの技術水準の範囲内で、21世紀の水資源を予測し対策部門へ有意義な情報を 出すには、予測の不確定性の巾を持った定量的予測を少なくともアジア規模で出す必要がある。

本研究では、気候モデルにより過去数十年の水循環を再現し観測データと比較・評価した上で、気候変動及び土地利用変化による将来の自然系で利用可能な水資源量を推定し、21 世紀半ばまでの総水需要量の推定と総合して、アジア域の水資源需給状況の将来展望を示す。

2.研究の概要

21世紀のアジア域での水資源を考えるために、地球温暖化等の気候変動や土地利用変化による水資源および洪水や干ばつの発生頻度の地域的特性およびその変化を予測し、政策決定に資する情報を提供する基盤を確立する。

そのために、サブグループ1では気候変化に伴う自然植生の変化、各国の穀物生産推定等に基づいた農地の拡大など人為的な土地被覆の変化、森林伐採・植林などによる森林面積の変化を推定し、21世紀半ばまでの全球植生分布を時間的・空間的に見積もり、気候モデルの境界条件として必要なデータを提供する。また気候モデルによる将来予測のための初期条件とするため、20世紀後半から現在までの土地利用・地表面環境の歴史的変化データを整備する。

サブグループ2では、サブグループ1のデータを利用し、気象研究所および国立環境研究所の全球気候モデルで現在の気候条件および温暖化時のシミュレーションを行うとともに地域気候モデルへの境界条件を出力する。地域気候グループでは、気象研究所、 国立環境研究所および電力中央研究所の地域気候モデルによりアジア域の水循環予測を行い、ダウンスケーリング手法によりさらに空間解像度の高い情報を提供する。

サブグループ3では、サブグループ2の気候モデルによる温暖化シミュレーションで得られた結果をもとに水資源量を算定するとともに、農業生産に必要となる潅漑水量の推移を推定する。これらを合わせて、当プロジェクトの最終出力としてのアジアの水資源評価を行う。

1. 土地利用・地表面環境の全球時空間補間推定

20世紀後半から現在までの土地利用・地表面環境の歴史的変化推定、および、21世紀半ばまでの変化見積もりを行い、時空間補間手法により気候モデルでの水循環・水資源将来予測に必要なデータ提供を行う。

(1)土地利用・地表面環境の全球時空間補間推定

気候変化に伴う自然植生の変化、各国の穀物生産量推定等に基づいた農地の拡大など人為的な土地被覆の変化、森林伐採・植林などによる森林面積の 変化を推定し、21世紀半ばまでの全球植生分布を時間的・空間的に見積もり、気候モデルの境界条件として必要なデータを提供する。また気候モデルによる将来予測のための初期条件とするため、20世紀後半から現在までの土地利用・地表面環境の歴史的変化データを整備する。

【東京大学空間情報科学研究センター】

1. 20世紀の歴史的な土地利用・地表面環境変化マップに関しては、検証作業を行い、同時により多くの観測データを追加することで、精度・信頼性の向上を実現する。

2. 21世紀半ばまでの土地利用・地表面環境変化の予測を行う。その際、都市の拡大を取り込み、また検証を行う。さらに、以上の行程を効率化するため にモデル計算の並列化を行う。

3. 上記研究をとりまとめ、20世紀初頭から21世紀半ばまでの土地利用・地表面環境変化マップとし て提供・公開し、水循環・水資源の将来予測に寄与する。

【気象庁気象研究所気候研究部】

平成13、14年度に実施した中国気象記録月報の電子化作業により電子化された37時点のデータを用い、他副課題で実施される現在気候条件下での年々変動予測実験の検証を行う。また、長期変動を詳細に調査するため、1996年以降の資料を整備し、気候トレンド等の有無について検証する。

2. 全球及びアジアの水循環将来予測

複数のモデルを用いた全球温暖化予測に基づき全球200〜300匍模の水循環変動の将来予測とアジア域50〜60匍模の領域水循環変動の将来予測を行い、温暖化した時の月平均降水量の変化に加えて、洪水や干ばつの強さや発生頻度分布がどう変化するかを予測する。またアジアの水資源予測に用いるために、10匍模の降水量データを統計的手法 により算出する。

(1)全球水循環予測

全球気候モデルを用いて21世紀末までの気温・日射量・降水量・土壌水分の変化を全球200〜300劵好院璽襪罵渋するとともに地域気候モデルで用いる境界条件を作成する。

【気象庁気象研究所気候研究部】

土地利用分布作成グループの結果として得られた現在及び将来の植生分布を、気象研究所の全球大気・陸面結合モデルに与えて、現在の気候条件および温暖化時の条件(IPCC により提示されているA2シナリオ)のもとでのシミュレーションを行う。モデル中の水循環(降水量、蒸発量、流出量、水平輸送量等)の変化等を調べる。

引き続き複数の初期条件等を与えた計算(アンサンブル実験)を行うこと、異なるモデル(CCSR/NIES モ デル)を用いて同一条件で計算している国立環境研究所のグループの結果と比較検討することにより、将来予測の不確実性に関して幅広い情報を作成する。また計算結果を検証データ作成グループ、領域気候 モデルグループ、ダウンスケーリンググループ、および水資源変動予測グループに提供する。

中国・インド等の研究者と、モデルでシミュレートされた水循環について情報交換を行う。

【独立行政法人国立環境研究所】

土地利用分布作成グループの結果として得られた現在及び将来の植生分布を、CCSR/NIES 全球気候モデルに与えて、現在の気候条件および温暖化時の条件(IPCC により提示されているA2シナリオ)のもとでのシミュレーションを行う。モデル中の水循環(降水量、蒸発量、流出量、水平輸送量等)の変化等を調べる。

複数の初期条件等を与えた計算(アンサンブル実験)を行うこと、異なるモデルを用いて同一条件で計算している気象研究所のグループの結果と比較検討することにより、将来予測の不確実性に関して幅広い情報を作成する。

計算結果を検証データ作成グループ、領域気候モデルグループ、ダウンスケーリンググループ、および水資源変動予測グループに提供する。

中国・韓国・インド等の研究機関等と会議を行い、モデルでシミュレートされた水循環について情報交換を行う。

(2)アジア域水循環予測

(1)の結果を境界条件として用いて、複数の地域気候モデルによりアジア域での21世紀半ばまでの50〜60劵好院璽襪竜げ后ζ射量・降水量・土壌水分の平均的な変化ならびに洪水や干ばつの強さや発生頻度分布の変化を予測する。さらに水資源変動予測に用いるために、(1)の結果と合わせて統計的に処理し、10劵好院璽襪旅濘緡無擇單攵躾緤の変動予測データを算出し提供する。

【気象庁気象研究所環境・応用気象研究部】

平成14年度に並列化したモデルを用いて、21 世紀半ばの20 年の長期積分を実施する。IPCC の温室効果ガス排出シナリオに沿った温室効果ガス環境下での実験を行う。

前年度と当該年度に行う実験結果から、洪水や干ばつの強さ、発生頻度の変化の予測につながるデー タをまとめ、随時、水資源変動予測グループに提供する。

さらに、(1)の課題から得られた地表面被覆状態の将来予測データに基づいた(2)-,料患絅皀妊襪侶彁桟覯未鰺僂ぁ△修譴魘界条件にした10 年積分を行い、地表面被覆状態の違いによる水循環変動の違いの評価を行う。

また、国立環境研究所、電力中央研究所の地域気候モデルの予測結果と比較を行い、ネスティングした全球モデル、地域気候モデルの違いの水循環予測にもたらす効果について評価検討を行う。

地域気候モデルを用いた研究を行っている世界各国の研究機関等と会議を行い、モデルでシミュレートされた水循環について情報交換を行う。

【独立行政法人国立環境研究所】

平成14 年度に高度化したモデルを用いて、21 世紀半ばの20 年の長期積分を実施する。IPCC の温室効果ガス排出シナリオに沿った温室効果ガス環境下での実験を行う。

前年度と当該年度に行った実験結果から、洪水や干ばつの強さ、発生頻度の変化の予つながるデータをまとめ、随時、水資源変動予測グループに提供する。

さらに、(1)の課題から得られた地表面被覆状態の将来予測データに基づいた(2)-,料患絅皀妊襪侶彁桟覯未鰺僂ぁ△修譴魘界条件にした10 年積分を行い、地表面被覆状態の違いによる水循環変動の違いの評価を行う。また、気象研究所、電力中央研究所の地域気候モデルの予測結果と比較を行い、ネスティングした全球モデル、地域気候モデルの違いの水循環予測にもたらす効果について評価検討を行う。

中国・韓国等の研究機関等との会議を行い、モデルでシミュレートされた水循環について情報交換を行う。

【財団法人電力中央研究所】

土地利用・地表面環境グループ( サブテーマ1-(1))により得られた地表面被覆状態の推定データを用い、全球気候モデルからの出力を境界・初期条件として水循環が計算できるように、電中研の地域気候モデルを改良する。

20世紀末と21世紀半ば(それぞれ10年間)に対する地域気候モデルの長期積分を行い、現在と将来のアジア域における水収支を比較する。

【独立行政法人農業環境技術研究所】

昨年度に開発した地域気候モデルからのダウンスケーリングスキームを、参加各機関の地域気候モデル出力値に適用し、10kmスケールの高解像度降水量予測値を得る。

得られた予測値を、全球気候モデルから得たれた結果と比較・検討し、東アジア域において最適な降水量予測値を算出する。

 

3. 気候予測に基づくアジアの水資源変動の将来展望

複数のモデルによって得られたアジア域の水循環 変動の将来予測に加えて、シナリオに基づく人間社会側の将来予測情報と組み合わせることにより、アジ ア域の水資源需要状況の将来展望を示し、今後渇水や降水の発生頻度がどの様に推移し、それに対して どの様な対策が望まれるかについて意志決定に資する資料を提示する。

(1)水資源賦存量変動評価と検証

温暖化等の気候予測結果に関して、特に降水強度の頻度分布等が過去に対してどの程度現実と適合しているかについて検討し、必要に応じて統計的な変換手法を提示する。また、観測河川流量データと分布型流出モデルを利用して気候モデルによるシミュレーション結果の検証を行う。これらに基づいて、自然系としての利用可能な将来の水資源量の算出を行う。

【東京大学生産技術研究所】

サブ課題2がこれまでに行った気候モデルによる温暖化実験の出力データを取得し、前年度までに開発してきた水文・河川モデルへの入力値を作るための交換手法を通すことによって、最終的には同じく開発してきた水文・河川モデルへと入力し、温暖化による河川流量とその変化を算定する。特に洪水(高水)流量、渇水(低水)流量とその再現期間の変化を求め、洪水・渇水の生じやすさについての出力及び評価を最大の目標とする。

これらの計算を全球気候モデルの出力に基づいた算定、また、領域気候モデルの出力に基づいた算定の両方を行い、前者に関しては世界的な水資源量変動の動向の中でのアジアの特徴に関して分布を行うこととし、後者に関しては、アジアの中でのより地域的な分布の特徴について分析を行う。これらの水資源量評価に関しては、全体的には領域気候モデルのグリッドサイズとほぼ同様の0.5 度スケールで行うが、アジアの代表的ないくつかの流域では0.1 度グリッドスケールでの水資源量算定を行い、その場合には、例えば、灌漑の取水の影響、ダム貯水池の影響など人為的な影響も取り込んだ水循環算定を目指す。

(2)農業生産マネージメント的視点から見た気候変動影響評価

農業生産の現状とその地域特性を調査し、そこで必要となる灌漑水量とその季節変化を明らかにする。さらに温暖化時にそれらがどのように推移するかを推定するとともに、主要穀物生産量の変化に及ぼす影響についても評価する。

【独立行政法人農業環境技術研究所】

前年度までに得られた主要穀物の栽培地域、期間(付け体系)という農業生産マネージメント的な資料を用いて、現在と50年後の気候値をもとに水資源変動が主要穀物の生産へ与える影響を評価する。また、本課題で得られた研究資料が今後の研究に貢献できるように、データベースを構築する。

具体的には下記の作業を行う。

1) 主要穀物の栽培期間、作付け体系に関する分布図の試作品の精度を高めるために、引き続いて文献や統計資料の収集を行う。

2) 収集した資料をもとに、分布図試作品(Ver.0)検証を行い、その結果に基づいて改良を行う。

3) 1990 年代の気候値と大項目1 と2 で明らかになった2050 年代の気候予測値から、上記分の分布図を用いて主要穀物の推定する。

4) 3)で推定された両者の穀物生産量を比較することによって、水資源変動が主要穀物の生産へ影響を評価する。

5) 1)および3)で得られたデータベースの構築を行う。

 

(3)アジアの水需要アセスメント

研究プロジェクトの最終アウトプットとして、アジアの水資源アセスメントを行う。これまでに得られた将来の水循環・水資源量と、将来の人口変動予測、土地利用変化予測、各国各セクターの単位水利用変動予測を、アジア域0.1度グリッドGIS 上に統合し、その需給バランスを評価することによって水資源アセスメントとする。また、このように、アジアの水資源需給バランスを適切に評価するためには、これまでにない新たな指標が必要であり、その考案も行う。

【東京大学生産技術研究所】

最終年度であることから、現在可能なstate-of-the-art な手法で、灌漑、工業、生活用水のそれぞれの現状及び将来予測を全球及びアジア0.5 度規模で算定する。前途のように都市・生活用水需要の増加に関しては、今後のアジアにおいて、その農業用水との優先権争いも含め、最も重要な要素となってくるであろうから、新しくかつ簡便な予測手法を生みだし、それによる予測を行う。

また、アジア域お水利用の歴史性、地理・地学的特異性を考慮することによって、アジア域での水資源アセスメントが適切に行えるような(つまり全世界一定基準とは異なる)新たな指標を提案したい。

加えて、温暖化の際に降水量、河川流量の特に洪水的現象を対象とした極値の分布形状がどのように変化するかについて、社会に与えるインパクトを考慮にいれながら、算定・評価する予定である。これは、世界的には水アセスメントといえば必ずToo little Waterのことを指すが、アジアでは同時にToo much Waterのアセスメントを行おうとするものである。

3.年次計画(PDFへのリンク)

 

 

II. 平成13年度における研究実施体制

研 究 項 目 担当機関 研究担当者
a.土地利用・地表面環境の全球時空間補間推定      
(1)土地利用・地表面環境の全球時空間補間推定 東京大学空間情報科学研究センター
気象庁気象研究所
気象庁気象研究所
○柴崎亮介(教授)
 高橋清利 (主任研究官)
 山崎信雄(研究室長)
b.全球及びアジアの水循環将来予測      
(1)全球水循環予測 気象庁気象研究所
気象庁気象研究所
気象庁気象研究所
気象庁気象研究所
気象庁気象研究所
気象庁気象研究所
気象庁気候・海洋気象部気候情報課


(独)国立環境研究所
◎鬼頭昭雄(研究室長)
○保坂征宏 (主任研究官)
 仲江川敏之(研究官)
 足立恭将(研究官)
 上口賢治(研究官)
 行本誠史 (主任研究官)
 尾瀬智昭
 (気候モデル開発推進官)
 野沢徹(研究員)
(2)アジア域水循環予測 気象庁気象研究所
気象庁気象研究所
気象庁気象研究所
気象庁気象研究所
気象庁気象研究所
(独)国立環境研究所
(財)電力中央研究所
(財)電力中央研究所
(独)農業環境技術研究所
 ○高藪出 (主任研究官)
 栗原和夫(研究室長)
 佐々木秀孝 (主任研究官)
 村崎万代 (主任研究官)
 佐藤康雄(研究部長)
 野沢徹(研究員)
 加藤央之 (上席研究員)
 西澤慶一 (主任研究員)
 西森基貴 (主任研究官)
c.気候予測に基づくアジアの水資源変動の将来展望      
(1)水資源賦存量変動評価と検証 総合地球環境学研究所
東京大学生産技術研究所
○沖大幹(助教授)
 鼎信次郎(助手)
(2)農業生産マネージメント的視点から見た気候変動影響評価 (独)農業環境技術研究所
(独)農業環境技術研究所
(独)農業環境技術研究所
(独)農業環境技術研究所
(独)農業環境技術研究所
○大野宏之 (主任研究官)
 鳥谷均 (ユニットリーダー)
 西森基貴 (主任研究官)
 石郷岡康史(研究員)
 後藤慎吉(研究員)
(3)アジアの水需要アセスメント 東京大学生産技術研究所
東京大学生産技術研究所
○沖 大幹(助教授)
 鼎 信次郎(助手)
研究進捗管理 気象庁気象研究所
文部科学省研究開発局
  

◎ 研究リーダー
○ サブ課題リーダー

 

III. 研究運営委員会

委   員 所       属
外部有識者
○池淵 周一 京都大学 防災研究所 水資源研究センター 教授
木村 富士男 筑波大学 地球科学系 教授
矢島 正晴 (独)農業技術研究機構東北農業研究センター地域基盤研究部長
高須 修二 (財)ダム技術センター技師長兼研究第1部長
研究実施者
鬼頭 昭雄 気象庁 気象研究所 気候研究部第1研究室 室長
柴崎 亮介 東京大学 空間情報科学研究センター 教授
沖 大幹 総合地球環境学研究所助教授
野沢 徹 (独)国立環境研究所大気圏環境研究領域大気物理研究室主任研究員
鳥谷 均 (独)農業環境技術研究所地球環境部気象研究グループ
気候資源ユニットリーダー
加藤 央之 (財)電力中央研究所狛江研究所大気科学部上席研究員
江守 正多 宇宙開発事業団 地球観測利用研究センター 招聘研究員
事 務 局
保坂 征宏 気象庁 気象研究所 気候研究部 第1研究室
山際 龍太郎 文部科学省 研究開発局 海洋地球課

○:研究運営委員長