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台風の強度推定
3. 軌道衛星搭載マイクロ波センサーによる台風強度推定 ①マイクロ波放射計

ドボラック法による台風強度推定法は、使用するデータが確実に入手できるという点で現業解析・予報作業に不可欠となっていますが、赤外画像で台風の眼が明瞭でない場合は推定精度が悪くなるという欠点があります。衛星赤外画像では上空から見た雲頂の輝度温度を観測するので、台風中心の上空を雲が覆っている場合は、その下に眼の壁雲などが形成されていてもわからないのです。

この欠点を克服するには、上空の雲を透過してその下の対流雲などを観測するセンサーのデータを使うことが考えられます。静止衛星にはそのようなセンサーは搭載されていませんが、もっと地上に近い軌道上を周回している衛星にはそのようなセンサーを搭載しているものがあります。

熱帯観測を目的としたTRMM衛星に搭載されたマイクロ波放射計 TMI(イメージャ)では、いくつかの周波数のマイクロ波帯の放射観測を行っています。85.5GHz(周波数が大)で観測される輝度温度は、主に固体(氷)降水による散乱を反映しており、背の高い対流域ほど輝度温度が低いという特徴があります。また10.7GHz、19.35GHz、21.3GHz及び37GHz(周波数が小)で観測される輝度温度は、主に液体降水(中~下層)からの射出を反映しており、液体降水の量が多いほど輝度温度が高いという特徴があります。

気象研究所台風研究部では、このようなマイクロ波放射計観測の性質を利用して、TMIで観測される台風周辺の輝度温度パターンから台風中心付近の最大風速の値を推定する手法を開発しました。この手法は、台風周辺の降水(または雲)パターンから台風強度を推定するという点で、ドボラック法の考え方を踏襲していますが、ドボラック法のようにCI数を求めるのではなく、降水粒子の分布から回帰式で風速推定値を計算するのが特徴です。この手法では担当者の主観が入ることはないので、客観性には優れています。

ドボラック法と比較した場合のこの手法の利点は、これまで述べたように、
(1) 静止気象衛星では見えない、上層の雲に覆われた対流雲の分布を利用することができる
(2) 解析者の主観的判断を必要としない
という点があります。
ただしこの手法は、降水の分布や強度を台風の強度(最大風速や中心気圧)と関連付けるという点では、ドボラック法と同じ考え方に基づきます。そしてこれは物理的な説明が十分といえないのが残念なところです。

さらにこの手法による台風強度推定の不利な点としては、頻度が少ないということがあります。TRMM衛星が1個の台風を観測できるのは最大で1日3回程度ですが、必ずしも台風の全貌を観測できるわけではないので、台風強度推定に使えるデータが取れるのは実際には1日1~2回程度になります。このため、この手法による台風強度推定は、常時データを入手できるが誤差の大きいと考えられるドボラック法による推定を補完するために使用されます。

類似したマイクロ波放射計(イメージャ)を搭載した軌道衛星は他にもあるのですが、センサーの特性がそれぞれ異なるので、雲パターンと風速を関係づける回帰式はそれぞれの衛星(センサー)ごとに決定する必要があります。

参考文献

Hoshino, S. and T. Nakazawa, 2007: Estimation of tropical cyclone’s intensity using TRMM/TMI brightness temperature data, J. Meteor. Soc. Japan, 85, 437-454. [pdf]

櫻木智明、星野俊介、小山亮、2012:TRMM/TMI 輝度温度データを用いた台風強度推定法の改良と誤差検証。日本気象学会2012年度秋季大会講演予稿集、P185。


目次

  1. 静止気象衛星赤外画像による台風強度推定(ドボラック法)
  2. 気象庁の台風強度推定におけるドボラック法の適用
  3. 軌道衛星搭載マイクロ波センサーによる台風強度推定 ①マイクロ波放射計
  4. 軌道衛星搭載マイクロ波センサーによる台風強度推定 ②マイクロ波探査計
  5. 台風強度推定の例(2013年台風7号)

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Last update: 17 March, 2014

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