気象庁気象研究所 台風研究部
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台風と海水温の関係

熱帯から亜熱帯海域の暖かい海上(海面水温が26.5℃以上)で、台風は発生するといわれています。高い海面水温は、熱帯で形成される弱い渦を最大風速~17m/s以上の台風へと強化するのに好都合な海の環境といえます。しかし海面水温が26.5℃以上の海域では、すべての弱い渦が台風へと強化されるわけではありません。

台風が発生した後、熱帯から亜熱帯海域上の暖かい海域を移動します。渦の強化により強まる海上付近の風は、海洋から大気へより多くの水蒸気を輸送するのに好都合です。また強風により生じた台風直下の高波は海面状態を変化させることにより、大気と海洋の間で働く摩擦を大きくします。この摩擦の効果により、北半球では反時計まわりに回転する台風の接線風が最大となる半径は引き締められ、同時に水蒸気は台風中心へ向けてより多く運ばれるようになります。台風の眼の壁雲は上昇流が強く、台風中心へ向けて運ばれた水蒸気の多くは、ここで上空へ運ばれることとなります。暖かく湿った大気が大気圧・温度共に低い上空へ運ばれると飽和し、そこで凝結することにより上空は暖められます。また水蒸気から生成された雨粒、氷粒は落下することにより、眼の壁雲の外側を冷やすとともに、激しい雨をもたらします。海面水温が高いほど大気中に含まれる水蒸気の量は多くなり、より多くの水蒸気が上空へ運ばれるため、台風の勢力はより強くなると考えられています。

新学術模式図
図1 台風の模式図。青色は海、赤色は周囲に比べると、同じ気圧高度において温度が高いことを示している。灰色は眼の壁雲とそこから伸びる層状性の雲を表している。矢印は大まかな大気の流れを表す。

しかしながら、台風自身の強い風は海を冷やす働きをします。海洋から大気へ熱エネルギーを放出すると海面水温は低下するものの、これは台風による海面水温低下全体の1~2割程度といわれています。台風自身の強い風は海洋表層をかき混ぜる(混合)ことにより、海洋表層の水温を低下させるのです。この2つの効果は台風の直下で起こり、台風直下の海面水温の低下を通じて、台風の発達に影響を与えます。

また台風による低気圧の回転は台風中心付近の海水を外側へ輸送し、結果として海洋内部から冷たい海水が海洋表層まで持ち上げられます。この効果を湧昇といいます。湧昇が台風の発達に及ぼす影響は台風の移動速度により異なります。台風の移動速度が遅い時は、湧昇によって持ち上げられた海水が台風自身の強い風によりかき混ぜられるので、より大きく海面水温は低下することとなります。

湧昇はまた、海洋表層で暖かい海水が占める深さが浅い時に、大きな効果をもたらします。このため、海洋の実況を的確に把握することは、台風の強さを予測する上で重要な役割を果たすという事ができます。

台風が中緯度に向かうと、その構造は変質し、移動速度も速くなる傾向があります。これにより、海面水温が台風に与える影響は発生発達期と比較すると相対的に小さくなります。とはいうものの、日本近海に近づき、黒潮海域の上を通過する時に、台風は再発達することもあります。これは海面水温が高く、また暖かい海水が相対的に深い層にあることから、低下しにくい状況であるため、と考えられています。例として、図2は台風が通過した後の海面水温分布です。台風経路の右側に沿って海面水温が周囲より低くなっている様子が見られます。

新学術模式図
図2 2011年台風第12号(水色の丸印は気象庁ベストトラックの中心位置を示しています。)と2011年9月2日における衛星マイクロ波放射計による日別海面水温観測データ。

台風と海洋貯熱量の関係

台風による海面水温低下が大きいか小さいかは、海洋内部の水温がどのような分布となっているか、に依存します。このことから台風の強さは海面水温だけでなく、海洋内部の水温も重要な要素となるということができます。そこで台風の強さは海面水温よりは海洋表層の蓄熱量(海洋貯熱量)と密接な関係があるのではないか、と考えられるようになりました。

図3は2004年10月の月平均海洋貯熱量分布を示しています。赤道付近、中央太平洋に海洋貯熱量が高い海域があることがわかります。一方で北西太平洋海域では30年平均値より低くなっています。これは台風活動が活発であったことから、海水温が低下したためです。このように先行する台風が作る海水温低下は、後続の台風の発生や発達に影響を与えることが知られています。

新学術模式図
図3 2004年10月における月別海洋貯熱量(単位はkcal.cm-2)を等値線で、色の塗り分けは30年平均値(1971-2000年)からの差をしめしています。赤い色は平均よりも高い値であることを示しています。

海洋貯熱量と台風強度との関係については、台風が発生してから最低中心気圧に達するまで、台風中心直下における海洋貯熱量を足し合わせた積算海洋貯熱量を考えると、台風最低中心気圧と積算海洋貯熱量は相関が高くなっています(図4)。これは海水温が大気海洋間の熱・水蒸気輸送を通じて台風内部における機構を通じてその強化、つまり図1の台風中心での暖かい領域(温暖核)での周囲の大気に対する正温度偏差の形成、に密接に関連していることを示唆しています。興味深いことに、北半球において、東太平洋のハリケーンは西太平洋の台風と比較して、小さい積算海洋貯熱量で、より中心気圧の低い渦を形成しているということです。これは東太平洋では、小さい積算海洋貯熱量でも、比較的強い温暖核が形成できることを表しています。

新学術模式図
図4 北半球における積算海洋貯熱量と台風(西太平洋)及びハリケーン(東太平洋)との関係。台風事例は2002-2005年の7-10月の期間に発生したもの。

last update : 2014-10-23
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