Fuyuki Hirose's HP

地震発生シミュレーション

地震の発生を予測するためには,過去の観測データを説明するモデルを構築する必要があります. モデルが正しければ,そのモデルに観測データを与えることで将来の予測が可能となります.

その手法のひとつが,岩石実験から得られた摩擦構成則(速度・状態依存摩擦則)に基づいた地震発生シミュレーションです. ここでは,(約30年前に東海地震説の根拠となった)東海地域の割れ残りや東海地域で繰り返し発生している長期的スロースリップイベント(以下,LSSE)を 再現したモデルについて簡単に解説します.詳しくは,論文[Hirose & Maeda, 2013, JGR]をご覧ください.

南海トラフ沿い大地震の発生履歴


図1.南海トラフ沿い大地震の発生履歴.

南海トラフ沿いを東海,東南海,南海の3つの地域に分けた場合に,地震が発生した範囲を実線や破線で示しています.破線は実線よりも記録が乏しいことを示します. 1498年以前は特に記録の抜けがあるかもしれないので,それ以降のデータについて考えます.

表から,次のことがわかります.

  • 東南海地震の2日~2年後に南海地震が発生した.
  • 1498年は逆に南海地震が東南海地震に先行した?
  • 時間差なく全域を破壊する巨大地震も発生した.
  • 昭和東南海地震で東海地域は割れ残った.
  • 発生間隔は一定ではない.

さらに,これ以外にも,

  • 昭和東南海・南海地震の破壊開始点は紀伊半島沖だが,それ以外の地震の開始点は諸説ある.
  • 1605年慶長地震では浅部だけが破壊した.

という指摘もあり,とても複雑な発生パターンとなっています. このように細かくみると複雑ですが,これらをいきなり全てモデル化することは難しいので,まずここでは大雑把に捉え,次の特徴に注目します.

A. 平均発生間隔111.5年で繰り返し発生している.

B. 東海地域は1944年東南海地震・1946年南海地震時に割れ残っている.

さらに,地殻変動データから,

C. 東海地域の浜名湖直下でLSSEが繰り返し発生している.

という観測事実もあるため,本研究では,ここで挙げた3つの特徴A~Cの再現を目指すことにしました.

東海地域の割れ残りの再現


図2.プレート境界面上におけるすべり速度の空間分布のスナップショット.

プレート収束速度で規格化しています.寒色系は固着,暖色系は滑っている状態を表します. 各パネル上部の数字はシミュレーション上の経過時間(年)を示します. アニメ[3.2MB]

各パネルの説明

  1. 全域を破壊した巨大地震から約13年後の様子で,地震発生層のほとんどの固着が回復している状態.
  2. 時間とともに固着域が小さくなる.
  3. プレスリップが紀伊半島沖で成長し,大地震の破壊が開始する.
  4. 破壊は震央から東西両方向へ広がる.
  5. 東海地域は固着したままで,他の領域では余効すべりがみられる.
  6. 東海が割れ残った大地震から約13年後の様子で,地震発生層のほとんどの固着が回復している状態.ただし,東海・東南海地域の間は除く.
  7. 時間とともに固着域が小さくなる.
  8. プレスリップが紀伊半島沖で成長し,大地震の破壊が開始する.
  9. 破壊は震央から東西両方向へ広がる.
  10. 東海地域を含む全域を破壊する巨大地震が発生する.

このように昭和東南海・南海地震時に東海地域が割れ残った状態を再現することができました. これは東海地域に沈み込む海山・海嶺を考慮したパラメータをモデルに組み込んだためです.


図3.東海LSSEの中心におけるすべり速度の時間変化.

RとNの縦線は地震時を示し,Rは全域破壊,Nは東海地域が割れ残る場合を示します.地震の発生間隔は約110年で,図1の平均発生間隔に近い値となっています.また,810年~910年の速度の増減は,LSSE(長期的スロースリップイベント)が繰り返し発生している様子を示しています.

東海地域の浜名湖直下で繰り返すLSSEの再現

図4.プレート境界面上におけるすべり速度の空間分布のスナップショット.

寒色系は固着,暖色系は滑っている状態を表します. 各パネル上部の数字はシミュレーション上の経過時間(年)を示し,図3の灰色の範囲に対応しています. パネル(a)のピンク破線は,2001-2005年に発生した東海LSSEのすべりレート(中心から5, 3, 1 cm/y)を示します. アニメ[1.5MB]

各パネルの説明

  • (a)-(b) 地震発生層のほとんどが固着している.
  • (c)-(n) 深部の定常すべりが徐々に浅部の固着域を侵食する.そして,固着域は時間とともに小さくなり,LSSEが発生する.
  • (o)-(r) ヒーリングプロセスによって固着域は徐々に大きくなる.

このように東海LSSEを再現することができました. これは東海地域の浜名湖直下には流体の存在が指摘されていて(例えば,こちらの論文[Hirose et al., 2008, JGR]をご参照ください), それを考慮したパラメータをモデルに組み込んだためです.

まとめ・今後の課題

上で説明してきたように,

A. 平均発生間隔111.5年で繰り返し発生している.

B. 東海地域は1944年東南海地震・1946年南海地震時に割れ残っている.

C. 東海地域の浜名湖直下でLSSEが繰り返し発生している.

という3つの特徴A~Cの再現ができました.

ただし,Aはとても大雑把な特徴です. また,実際の昭和東南海・南海地震では時間差が約2年ありましたが,シミュレーションでは同時に東西両方向へ破壊が進展します. このように実際の観測データの全てを説明し得るモデルの構築はまだできていません.今後以下を考慮してモデルの精度を高める必要があると考えています.

  1. パラメータの選択の妥当性.
  2. 粘弾性の効果.
  3. 地震時のダイナミックな破壊の効果.
  4. 計算領域外の扱い.
  5. すべりの方向.
  6. 法線応力の変化分.

なお,ここで紹介した内容以外に,異なる摩擦の発展則を用いたモデルでも,東海地域の割れ残りと東海LSSEを再現することができます. 詳しくは,論文[Hirose & Maeda, 2013, JGR]をご覧ください.