Fuyuki Hirose's HP

統計的手法に基づいた地震発生予測モデル

地震発生予測モデルの構築を目指しています. ここでは,改良G-R則を取り入れた予測モデル「MGRモデル」について簡単に解説します. 本モデルは2009年9月に日本版CSEPに提出しています.

MGRモデル

本予測モデルの主な特徴は,改良G-R則(the Modified Gutenberg-Richter law: Utsu, 1974, JPE)を用いていることです. その頭文字を取ってMGRモデルと名付けました(※G-R則の改良版はこの他にも色々と提案されているため,「宇津の式」とすべきだったかもしれません). 改良G-R則は,通常のG-R則にパラメータをひとつ追加して規模別頻度分布の曲りを表現できるようにしたものです.下に例を示します.


図1.地震の規模別頻度分布.

北緯34.4度,東経136.1度から半径20 km以内で発生したイベントです.+印は各Mのイベント数,○は検知能力を考慮して補正した各Mのイベント数, ●は○のイベント数を積算したものです.ここで,実直線はG-R則,破曲線は改良G-R則を当て嵌めています.

規模別頻度分布(●に注目)は概ね直線に並ぶことが知られていますが,ここで示したようにやや上に凸の曲がった分布になる地域もあります. 仮に直線で近似した場合,予測モデルは規模が大きめの地震を過大に見積もることになってしまいます.

各地域の地震活動の特徴を正確に近似することは予測をする上で必要不可欠です. 本モデルの面白い点は,「大地震が起きる地域を抽出する」のではなく,逆に改良G-R則を用いて「大地震が起きにくい地域を積極的に抽出する」ところです. それによりモデル全体の予測精度の向上を図っています.

この他に,余震活動の減衰の効果や最低保障発生率も考慮してモデルを構築しています. 詳しくは,論文[Hirose & Maeda, 2011, EPS]をご覧ください.

予測結果

図2.MGRモデルで予測した地震(M5.0~9.0)の期待値の分布.

2001年~2008年の各一年間の予測とその結果です. 予測に当たっては,1965年から予測期間直前までのデータを用いています. 暖色系は地震が発生する可能性が高い地域,寒色系は地震が発生する可能性が低い地域を示します. 紫のシンボルは予測期間中に発生したM5.0以上の地震を示しています. つまり,暖色系の領域に紫のシンボルが重なっていれば良い予測となります. ドンピシャではありませんが,それでもランダム(でたらめ)な予測に比べると本モデルの成績の方が良いという結果が得られています.

本モデルは予測期間直前までのデータを用いて予測する学習型のモデルとなっています. ところが微妙な違いはあれど,各年とも大体同じような分布をしていることが見て取れます. 本モデルに限らず地震活動に基づいた地震発生予測モデルの多くは,

A. 普段から地震活動が活発な地域

B. 規模別頻度分布の傾きが小さい(相対的に大きな地震が多い)地域

で大きめの地震が発生するという予測を出す傾向にあります. ただ,地震活動の時間的な変化は小さいため,各年で違いはあまり表れないようです.

2009年以降の予測と結果

論文[Hirose & Maeda, 2011, EPS]には,2008年までの予測結果を掲載していました. 2009年以降の各年の予測と結果を以下に掲載します.

図3.MGRモデルで予測した地震(M5.0~9.0)の期待値の分布.

2009年~2016年の各一年間の予測とその結果です.図の見方は図2と同じです.2011年東北地方太平洋沖地震Mw9.0後に内陸の広範囲で地震活動が活発になりました(参考[Hirose et al., 2011, EPS]). 特に福島・茨城県境付近の地震活動が顕著(M5.0以上が25個)でしたが,普段の活動が見られなかった地域だったため,全く予測できませんでした. なお,2011年の活動を学習したため,2012年以降の予測は概ね順調です.

図4.MGRモデルから予測される2017年一年間の地震(M5.0~9.0)の期待値の分布.

2017年一年間の予測です.図の見方は図2と同じです.暖色系を示す地域(例えば,新潟-神戸歪集中帯,伊豆,2016年に大きめの地震が発生した地域)で対象地震が発生する可能性が高いことを示しています.

まとめ・今後の課題

地震活動を基に予測を行っているため,普段の地震活動が低調な地域で突然発生する大きな地震は残念ながら予測できません(最低保障発生率という考え方を導入していますが,本質的な問題の解決には至っていません).

予測精度を向上させるためには,地震活動だけでなく応力や歪の情報も加えていく必要があると考えています.

なお,本モデルは,M5以上の地震を対象としており,巨大地震に特化した予測モデルではないことに留意する必要があります.