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はじめに | ![]() |
日本の天候は、中高緯度独自の大気や海洋の変動に加え熱帯域の変動にも大きな影響を受けています。したがって、日本の季節予報にとって熱帯の現象を予測することが不可欠となります。特にエルニーニョ現象は、その影響が熱帯域を中心に世界の天候に及ぶため重要な予測対象となっています。気象庁では、エルニーニョ現象の監視と予測の情報を定期的に発表していますが、1999年8月のエルニーニョ予測業務開始以降、熱帯海面水温の予測に使用される大気海洋結合数値モデルや海洋データ同化の改良により、予測精度の向上が図られてきました。
気象研究所では、季節予報及びエルニーニョ予測技術のさらなる改善を目指したエルニーニョ予測システムの構築、及び季節内から年々の時間規模での変動機構に関する解析研究を行っています。この中で、エルニーニョ予測システムに不可欠な大気海洋結合数値モデル及び海洋データ同化システムの高度化を行い、熱帯太平洋海面水温の予測精度の向上を目指して来ました(Yasuda et al. 2007, Takaya et al. 2010)。
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エルニーニョ予測システム | ![]() |
エルニーニョ予測は、大気・海洋の実況を初期状態として、大気海洋結合数値モデルを時間積分することで行われます(図1)。大気海洋結合数値モデルを構成する大気モデルとしては、気象庁統一全球大気モデルTL95L40(水平解像度約200km)を使用します。この大気モデルに結合する海洋モデルは、海洋研究部で開発された気象研究所共用海洋大循環モデル(MRI.COM; 石川ほか 2005)を使用します。海洋モデルの水平解像度は東西南北1°(赤道域で南北0.3°)となっています。
エルニーニョ現象のような季節より長い時間規模の現象では、海洋の初期状態が長く記憶されてその影響が大気に及ぶため、エルニーニョ現象を正確に予測するためには、海洋の初期状態の再現が重要になります。そこで我々は、海洋研究部で開発された海洋データ同化システム(MOVE; Usui et al. 2006)を用いて、海洋内部の水温塩分データを海洋モデルに同化しています。特に、海洋観測から水温塩分の複数の鉛直モードを推定し、これらの推定された水温塩分場を同化することにより、熱帯の水温塩分流速場の再現性が向上しました。この海洋場の再現性の向上は、エルニーニョ予測における初期値という点だけでなく、エルニーニョ現象に伴う熱帯太平洋の海洋内部の実況を把握する上でも重要です。

図1:エルニーニョ予測システム開発の概要。
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エルニーニョ予測実験 | ![]() |
エルニーニョ予測実験の対象期間中で最も大きな変動である1997年から1998年にかけて発生したエルニーニョ現象の予測事例を図2に示します。海面(図2左)では、正水温偏差が春から夏にペルー沖から熱帯太平洋の中・東部に広がりました。1997年秋以降には、東部熱帯太平洋には4℃を超える正偏差が再現されています。海洋内部(図2右)では、西部太平洋赤道域に見られた表層水温の正偏差が赤道に沿って東進しました。1997年夏以降、西部で負偏差、東部で8℃を超える正偏差という東西構造が再現されています。

図2:1997/98年のエルニーニョの予測例。(左)海面水温偏差。(右)水温偏差赤道東西断面。
図3に1979年1月から2003円12月までの毎月の予測実験から算出した東部熱帯太平洋NINO3.4海域(170°-120°W, 5°S-5°N)における海面水温の予測成績を示します。予測開始3季節先までのアノマリー相関と平方根二乗平均誤差が現業システムの成績を上回っています。アノマリー相関や平方根二乗平均誤差の数値は、アンサンブルメンバー数や解析期間、データの平滑化処理方法によって異なります。本研究では、前現業システムと比較するために毎月1回の実験(1メンバー)でアノマリー相関などを求めました。別途実施した10メンバーによる計算では、6ヵ月先の予測におけるアノマリー相関は0.77となっています。

図3:東部熱帯太平洋NINO3.4海域(170°-120°W, 5°S-5°N)における
海面水温の予測成績。(a)海面水温偏差時系列。(b)アノマリー相関。(c)平方根二乗平均誤差。
ただし、毎月1回の実験(1メンバー)の結果であることに注意(本文参照)。
日本の天候への影響を考えると、西部熱帯太平洋での予測精度も重要です。西部熱帯太平洋NINOWEST海域(130°-150°E, 0°-15°N)における海面水温予測(図4)は、NINO3.4海域ほど予測成績は高くないものの、平方根二乗平均誤乗平均誤差も10-20%減少し、気象庁現業システムと比較すると、この海域での予測成績が著しく改善されました。

図4:西部熱帯太平洋NINOWEST海域(130°-150°E, 0°-15°N)における
海面水温の予測成績。(a)海面水温偏差時系列。(b)アノマリー相関。(c)平方根二乗平均誤差。
ただし、毎月1回の実験(1メンバー)の結果であることに注意(本文参照)。
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気象庁現業季節予報システムへ | ![]() |
本研究では、大気海洋結合数値モデル及び海洋データ同化システムの高度化により、熱帯太平洋海面水温の予測性能が向上しました。特に、日本の季節予報への影響が大きい西部熱帯太平洋での予測成績が気象庁現業システムと比較して大きく向上したことは重要な結果です。今後は、大気海洋結合モデルの持つ誤差をさらに減少させ、さらに高い予測性能を達成することが必要です。
なお、本予測システムは、気象庁でのエルニーニョ監視及び予測業務における現業システムとして2008年3月より運用されています。さらに、日本域の季節予報にも利用可能と判断されたため、2010年2月より気象庁での現業季節予報システムとしても使用されています(気象庁での季節予報はこちら)。
参考文献