3 極夜ジェット振動とその特徴

 図1a、bはそれぞれ北半球、南半球の卓越モード(E-SVD1)の帯状平均東西風とE-Pフラックスについての連続する6ヶ月にわたる回帰を示している。ラグ0からラグ4までがE-SVDを行った期間であり、それぞれの対応する実際の月々とともに図に示した。また、それぞれの帯状平均東西風の95%有意な(相関係数が北半球(南半球)で0.32(0.31)より大きい)領域にはハッチをかけた。北半球ではこの第一モードは全二乗変動のうち27.5%を説明するが、23.3%を説明する第二モードはほとんど第一モードを全体的に時間をずらしただけの変動を記述しており、本質的にはこの二つのモードは振動する同一の変動を記述していると考えられる。このように第一モードと第二モードの寄与率が接近するのは周期的な変動に対して遅れをふくめた拡張解析を行った場合に一般に現われる性質であり、図からもわかるが北半球の変動は準周期的であるといえる。他方、南半球ではこの第一モードは全二乗変動のうち56.9%を説明し、9.7%を説明する第二モードとは明瞭にモードの分離が行われていた。図1bの結果をカレンダー月に固定した解析(Kuroda and Kodera, 1998)と比較してみると、各ラグ月のパターンはその月に対応する変動を平均したようなものになっていて、南半球の変動がほとんど季節進行にロックしているということを示している。この変動は全体場で見ると極渦崩壊の早まりまたは遅れに関連した変動であると見なせる。

fig.1
図1、帯状平均東西風とE-Pフラックス鉛直成分の(a)北半球(b)南半球におけるE-SVD第一モードのヘテロ回帰図。コンターは帯状平均東西風を矢印はE-Pフラックスを表す。図上の数字はラグ月を表し、イニシャルは対応する実際の月を表す。影は東西風の相関値が95%で有意な領域を表す。コンター間隔は2m/sで破線は負の値を表している。E-Pフラックスは気圧の逆数のルートでスケールされている。(Kuroda and Kodera, 2001 より)

 北半球の変動を見ると(図1a)、弱風域がまず中緯度の上部成層圏に高緯度から上ってくる波を伴って作られ(ラグ−1、0)、それが高緯度へ移動しながら強化され(ラグ1)、そして下部成層圏へ(ラグ2)と中心を極向き下向きに移動している。さらに弱風域が高緯度対流圏で消滅した後はその低緯度側上部成層圏に存在していた強風域も同様に極向き下向きに移動し(ラグ3、4)ながら振幅を弱めて春に至っている。この結果は負のアノマリーの極向き下方への移動に引き続いてさらに低緯度で形成された正のアノマリーがその後同様に準周期的に降りてくることを示している。この東西風の変動はいつも大きな波の伝播の変動を伴いE-Pフラックス偏差は常に弱風域へと向かうような変動をしており、数ヶ月のスケールで気候的なE-Pフラックスの上方伝播が強化されたり、弱化したりしている。また、対流圏内でもE-Pフラックスの南北伝播が成層圏対流圏東西風の双極子アノマリー形成期(ラグ1、2)に変動を示している。これに対して、南半球ではまず低緯度上部成層圏に弱風域と強風域の南北双極子がE-Pフラックスの弱風域への収束を伴って作られる(ラグ−1、0)。南半球でも上部成層圏中低緯度に作られた弱風域が時間と共に極域下方へと移っていくと言う点は同じだが北半球と異なり低緯度の東西風のアノマリーと同時に高緯度に正のアノマリーが形成される(ラグ0、1)。この正のアノマリーはゆっくりと下方へ移動しながら弱まり、かつその範囲を狭め(ラグ2、3)、最後に負のアノマリーは中高緯度全体をしめるようになる(ラグ4)。また、北半球のように弱風域の後を追うような強風域は現れない。他方E-Pフラックスの鉛直成分アノマリーは全期間ほぼ一定の符号を保っており、初期に波の鉛直伝播が強いとそれが最後まで持続する傾向を示している。また、波の上る中心緯度も東西風の負の領域の拡大に従って次第に高緯度に移動していく傾向を示している。この図では南半球では対流圏内でのE-Pフラックスの南北伝播はほとんど見られないが、この解析で落ちている高振動波では南北伝播の変化がおきていることが確かめられた(図略)。

 ここで得られた帯状平均東西風の成因をより詳しく見るために両者の場合の波加速を帯状平均東西風の回帰によって計算したところ、共に帯状平均東西風の加速域、減速域と比較的よく対応して変動していることがわかった。しかし、南半球では減速域は波収束とよく対応しているものの加速域は波加速と対応していない(波加速域はほとんど存在しない)。このことは、南半球での加速域は残差速度による移流項が主となることを意味している。他方、E-Pフラックスを波数分解して各波数ごとの加速と比較してみるとKodera et al.(2000)が指摘した北半球のみならず南半球もその主要部分は波数1の波がその変動要因になっていることが分かった。ただし、南半球では波数1成分は主に減速域の極方向への移動を誘導しているのに対し、波数2成分は減速域の下方伝播に大きな寄与をしていることがわかった(図略)。

 次にこのモードに伴う残差循環と温度場の変化について考える(図2a、b)。ここで温度場の変動は帯状平均東西風の回帰より計算した。また、残差循環はまずソルと山崎(1998)に準じて0.5ミリバールで上昇下降流がゼロとした境界条件のもとで半旬ごとにTEM方程式を積分することによって求め、その後、極夜ジェットの変動に伴う変動を帯状平均東西風の回帰より求めた。ところで温度場の変動は第一義的には波の収束発散にともなうラグランジュ的な上昇流、下降流に伴って形成されると考えられる。図より明らかに両半球における高温偏差域は確かに下降偏差流とよく対応しており、これによって作られていることがわかる。この温度変動の大きな領域は北半球の変動ではほぼ北極点で最大となっており、時間と共に高温アノマリーが下降しそのあとを追って低温アノマリーが下降してきている様子が良く分かる。また、極域で高温の場合は低緯度で低温となっている。特にラグ2での温度場の四重極子的構造は明瞭である。高温偏差そのものはラグ1で最大となっているが高温を保っている時間はせいぜい3ヶ月程度である。それに対し、南半球においては高温域は東西風のつくる南北双極子の間である中緯度中部成層圏で減速域の極側の下降流アノマリーにともなって作られ減速域の拡大と共に成長しながら極域に移動し(ラグ0〜2)その後ゆっくりと下降している(ラグ3、4)という変動を示している。また、北半球と同様に極側の高温域の低緯度側に低温域が存在しているが、北半球と異なり高温域の上に存在する低温偏差域はほとんど下降しないままに春に至って消滅している。また、最大温度偏差となるのはラグ3であるが、高温偏差の持続時間は5ヶ月にも及んでいる。

fig.2
図2、図1と同様。ただし、帯状平均東西風スコアに対する帯状平均温度場および残差速度に対する回帰図。影は温度の相関値が95%で有意な領域を表す。コンター間隔は1K。(Kuroda and Kodera, 2001 より)

 いずれの半球においても極域での温度偏差の下降の様子が見られるが、その特徴をより詳しく見るために図3a、bに南北両極点における温度場偏差の変動を示す。北極点においては正負交互の温度場の下降が、南極点では年一回の温度場の下降が明瞭に見て取れる。

fig.3
図3、図2と同様。ただし極点温度(80度より極側で平均した温度)に対するもの。コンター間隔は1K。図の下には帯状平均東西風スコア(PJOインデックス)とAO/AAOインデックス間の相関の時間変化を示した。(Kuroda and Kodera, 2001 より)

このような極夜ジェット振動に伴う温度場の下降変動パターンは生の温度偏差データでも観察される。図4、図5に1987年から1988年にかけての南北両半球での30日移動平均を施した時間高度断面図を季節進行に伴う極域での温度変動全体とともに示すが、実際にそのような変動が良く見えることが分かる。

fig.4
図4、(a)30日移動平均した1987年から1989年までの北極極点温度偏差。(b)北極月平均極点温度の年々変動に対する標準偏差。同じものを3つ繰り返してある。コンター間隔は(a)は5K、(b)は1K。影は(a)では負を表し、(b)では4K以上のところを表している。(Kuroda and Kodera, 2001 より)

fig.5
図5、図4と同様。ただし1986年から1988年までの南半球極点温度偏差。また、コンター間隔は(a)では3Kとしている。(Kuroda and Kodera, 2001 より)

実際、北極点での極夜ジェット変動にともなう温度場の変動は11月から4月にかけて成層圏全域で変動が大きい期間領域に対応して存在していることがわかる。他方、南極点での極夜ジェット変動に伴う温度変動は、南極点での温度変動度の時間高度変動と同じように変動の大きな領域の高度が季節とともに下降してくるパターンを示している。両極の極夜ジェット変動に伴う温度変動はともに全変動振幅のうちの半分程度を説明する変動モードであるが、北半球ではこのような構造は全体の変動度で現れていない。このことは北半球では極夜ジェット振動は年周期と同期しない季節内変動であり、南半球の極夜ジェット変動が季節進行の変調の形であらわれているのと対照的な点である。南半球では季節進行と共に極域温度の変動度の大きな高度が移り変わっているが、このことは季節によって特定の変動パターンが出現しやすいことと対応している。

 さて、このPJO変動に伴い、北半球では1/2月に、南半球では10/11月に対流圏で風が双極子的な変動を示していたが(図1)。このことは、この時期には対流圏では環状モード的な変動が作られていることを示唆している。そこで、この月(以下環状期と呼ぶ)を含む連続する3ヶ月の1hPa,30hPa,500hPaの高度場変化をPJO時係数の回帰によって計算しこれを図6、図7に示す。

fig.6
図6、図2と同様。ただし北半球の環状期付近(ラグ0から2)での高度場のPJOインデックスに対する回帰図。図の上から下に向かって1hPa、30hPa、500hPaのものが示されている。コンター間隔は1hPaでは50m、30hPaで30m、500hPaで10mとしている。図下の数値はAOインデックスとPJOインデックスの各ラグでの相関値を示している。 (Kuroda, 2002より)

fig.7
図7、図6と同様。ただし南半球環状期付近(ラグ2から5)での高度場の回帰図。(Kuroda, 2002より)

図を見ると、予想通り環状期には両半球とも500hPa面で環状モード的な変動が形成されており、相関係数も負の大きな値となっている。この時期北半球のプラムフラックスは極向きの偏差となり、これが図1でみられる環状期の極向きのE-Pフラックスに対応してAMを作っていることが分った(図略)。(ただし、Thompson and Wallace (1998,2000) のAO信号とは異なり、北太平洋側に有意な信号がない事に注意。一般に成層圏結合型の「AO」はこのような特徴を持っている。Christiansen(2002)も参照のこと)南半球でもこの解析で用いた5日平均で落ちている短周期の波を調べると、やはりこの短周期の波動が極向き偏差を示しておりこの波が南半球のAMを形成していることを示唆している(Limpasuvan and Hartmann, 2000)。さて、ここで上層のPJO変動の構造を見ると、興味深いことに環状期には、両半球とも30hPa、1hPa面でも環状的な(即ち波数0が卓越している)構造をしている。すなわち環状期にはPJOに伴う変動パターンは対流圏のみならず上部成層圏まで連なった背の高い帯状対称なチューブのような形の構造になっている。北半球での環状期の一ヶ月前には成層圏に前駆的信号が見られはするが対流圏ではAO的な構造をしていないし、また一ヶ月後には上部成層圏から環状構造が崩れてきて対流圏でもNAO的な形に変化している。また、南半球では成層圏における南インド洋付近に極大をもつ三日月型の変動が時間とともに丸くなっていく過程を経て環状期に至っており、環状期の一ヶ月後には対流圏で環状構造が崩れるとともに成層圏の環状振幅も小さくなっている。北半球における環状期におけるAMの形はまさにBaldwin and Dunkerton (1999)が指摘した冬季の背の高いAOの構造そっくりである。しかし、この背の高いAM的な構造はPJOの時間発展のひとつのステージでのみ現れる現象であり、環状期を過ぎると再びそのようなAM的な構造が崩れることに注意する必要がある。このようにしてPJOの時間発展のあるステージで背の高いAM的な変動が現れる。