3-2 結果(その2)

 さて、結果(その1)により、観測データと化学気候モデルによるシミュレーションから、太陽活動にともない晩冬期の南半球環状モードが時間空間的に大きく変調することが分かった。そして、その変調のうち太陽活動による時間的な変調(持続性の違い)は下部成層圏に南半球環状モードの強度と相関するオゾンが作られるかどうかであること、そして特に高太陽活動(HS)時にはオゾン量がメモリーの役割を果たすことによって高い持続性が作られることが示唆された。しかし他方そのようなオゾンの違いは、実は晩冬期における南半球環状モードの鉛直方向への延び方の違いから来ていることも示されたのであった。つまり、環状モードが上部成層圏に延びるか延びないの違いが、環状モードと成層圏変動が関係するかどうかという違いを生んでいると考えられるわけである。そこで、本章では特に核心部と考えられる太陽活動にともなう空間的な変調に焦点をあわせ、観測データと化学気候モデル両方を用いて、太陽活動にともなう空間的な変調について詳しく調べてみる。

 結果(その1)では、対流圏下層(850-hPa)で定義したSAM指数(以下T-SAMと称する)を元に議論してきた。これはT-SAMとの関連性、即ち対流圏での主要な変動との関連を見てきたことに相当する。今度はそれに対して成層圏での主要な変動との関連性という観点で調べてみる。図12は11月平均の30-hPa高度場の年々変動の主成分によって定義されるSAM指数(以下S-SAMと称する)を元にして、HS年とLS年での10月から12月の平均東西風とEPフラックスの相関を比較したものである。図から分かるように、11月の成層圏の特に極側ではS-SAMとの相関はHSでもLSでも非常に大きいが、しかしHS年の方がより相関の大きい領域が南北に広がっているような傾向が見えている。前後の月との相関を見ると、さらにHS年には10月から12月までの成層圏で11月のS-SAMとの相関が高い領域が広がっている。即ち11月のS-SAMとの持続性が非常に高い。それに対して、LS年では前後の月の成層圏の信号は非常に持続性が弱くなっていることが分かる。他方11月のS-SAMの対流圏とのつながりを見ると、HS年では信号が強く対流圏まで延びているのに対してLS年では信号の伸びが非常に弱い。HS年の対流圏とのつながりは10月から既に始まっていることも分かる。この辺を明瞭にするために11月のS-SAM指数とT-SAMの相関を両者で比較した。11月パネルの下の数字がそれであり、実際にHS年では0.6程度もの大きさがあるがLSでは0.4程度と小さく、両者で大きな違いがあることが分かる。また、このような東西風の違いは波動活動とも関連があると考えられるので、EPフラックスとの相関についても調べた(図の矢印)。図から分かるように、特に10月での対流圏から成層圏への波伝播にHS年とLS年での大きな違いが見られることが分かる。また、11月の対流圏には環状モードの形成と関連すると思われる低緯度向きの波動活動がHS年において明瞭である。この結果を以前の結果図4と比較すると、HS年においてのみT-SAMが上部成層圏まで延びていたのは、HS年においてのみ成層圏がT-SAMと良く相関し、LS年では両者がほぼバラバラに変動していたためであることが分かる。

fig.12
図12、HSとLSに分けて、11月平均30-hPa高度場より求めたS-SAM指数と10月11月12月の帯状平均東西風(影、コンター)およびEPフラックスの相関(矢)を比較したもの。影は相関が0.4以上、コンターは0.5以上0.1ごとにプロットし、矢は相関の絶対値が0.5以上のみ表示している。数字は11月のS-SAM指数と850-hPa高度場より求めたT-SAM指数の相関。

 図12の結果は、太陽活動が対流圏と成層圏の変動の相関性を高める働きがあることを示唆している。今までは、太陽活動を大きく二分割させHSとLSに分けて議論してきたが、より詳細に太陽活動と対流圏と成層圏の結合の関係性を調べるために、13図(a)では、11月平均のF10.7を大きさ順に並べ、それぞれ最も小さい11年、中間の11年、大きい11年を33年データから選び、その11年データでのF10.7の範囲を横棒で、平均値を黒丸で、そしてそれぞれのグループで計算したS-SAM指数とT-SAMの相関を縦軸で示した。また、データとしては従属になるが、前述の3グループの境界の前後から取った11年グループからの計算結果も合わせて示している。図から明瞭に太陽活動の強まりと共に対流圏と成層圏の相関が高まっていく傾向が見える。すなわち、太陽活動は対流圏成層圏結合をより強固にしていく作用があることが分かる。しかし、そもそも「太陽活動」とは物理的には一体何なのであろうか?その辺をより明瞭にするために化学気候モデルのシミュレーションを行った。

fig.13
図13、(a)南半球11月平均30-hPaで定義されたS-SAM指数と850-hPaで定義されたT-SAM指数の相関と11月平均F10.7指数の散布図。黒丸は平均F10.7、横棒はグループ間のF10.7の範囲 (b)北半球12、1、2月(DJF)平均30-hPaで定義されたS-SAM指数と北大西洋振動(NAO)指数の相関とDJF平均F10.7指数の散布図。黒丸は平均F10.7、横棒はグループ間のF10.7の範囲。

 化学気候モデルのシミュレーションとしては結果(その1)で用いたHSとLSのシミュレーション21年の結果に加えて、同じ初期値からHSシミュレーションに対してHSとLSの比に相当するだけ紫外線強度のみをさらに高めた(と言っても紫外線域のみ、かつ大きさもせいぜい数%の程度であることに注意)同様のランであるUSランをやはり21年行い、これらを合わせて比較した。図14はモデルシミュレーションにおける極渦崩壊期である12月における、30-hPaで定義されたS-SAM指数と平均東西風の相関、及び850-hPaで定義されたT-SAM指数との相関(図下の数字)をUS、HS、LSそれぞれのランで比較したものである。図から見て取れるように、S-SAMの対流圏との相関が紫外線強度と共に強まっていることが分かる。ここで用いたモデルは化学気候モデルであって宇宙線の効果などは取り入れていない。よって、このモデル結果からすると図13で得られた観測結果についても、太陽活動因子は紫外線強度であると考えられる。すなわち、紫外線強度が強いほど対流圏成層圏結合が強まるという結果となる。

fig.14
図14、図12と同様。ただし紫外線強度のみを変化させた12月の化学気候モデルによるシミュレーション結果。左から右に、US、HS、LSのラン。図下の数字はS-SAM指数とT-SAM指数の相関

 さて、しかし紫外線強度が強いほど対流圏成層圏結合が強まるという現象とは一体どのような物理過程で起きているのであろうか。その解明の鍵になると考えられるのは、図12で示した10月におけるHSとLSでの波動活動の違いである。HS年に限り最結合月の一ヶ月前から成層圏へと伝播する波動が成層圏の環状モードと強い関係性を持つのであった。この波動の性質を見るために、HS年につき60Sで切った温度場とオゾン場の波動成分を10月、11月と比較した。図より分かるように、10月には温度場でもオゾン場でも波数1の西に傾いた(すなわち上方伝播する)波動構造が明瞭に見える。そして中部成層圏より下では両者の位相構造が非常に良く似ていることが分かる。同様な構造はモデル結果にも見られた。このことは、オゾン場と温度場が正のフィードバックを行うことによってロスピー波が増幅しながら上方伝播をしていることを示唆している。このようなHS年における気候値的に高いオゾン濃度を背景とするロスピー波の増幅伝播は、成層圏での波平均流の相互作用をLS年に比べてより強力なものとし、その結果より強い子午面循環を引き起こしそれが再び下層での波形成を促進する、という風にフィードバックを引き起こすであろう。このような物理プロセスによってHS年にはより強い対流圏成層圏結合が引き起こされると考えられる。

fig.15
図15、図12と同様。ただし、10月から11月までの60Sで切った温度場、オゾン場の波動成分の相関。

 ただし、この辺のプロセスの詳細はなお未解明であり、さらにより詳細な解析や実験が必要であろう。別のシナリオとして、例えばNathan and Cordero (2007)はオゾンの存在が波の上方伝播の屈折率を変化させうる可能性を指摘している。このようなプロセスも成層圏の波平均流相互作用を通常とは変化させるであろうからこのような過程も上下結合をコントロールしている可能性もある。

 さて、本編ではもっぱら太陽活動による南半球環状モードの変調の問題を扱ってきた。しかし、よく似た変調は北半球厳冬期(12、1、2月)の北大西洋振動(NAO)についても起きていることが知られている(Kodera, 2002,2003; Ogi et al., 2003)。そこで、ここではその類似性がどの程度成り立っているのかを見るために、12、1、2月(DJF)平均した北大西洋振動(NAO)と30-hPaで定義されたS-SAM指数の相関を、南半球と同様にDJF平均のF10.7と共に散布図に示した(図13b)。なお、このグループ分けは12年で行った。図から分かるように、この場合にも太陽活動と対流圏成層圏結合は非常によい関係があることが分かる。従って、本編で得られた結果は南半球特有なものではなく、南北両半球の環状モードに共通する、より深い物理的基盤を持つ現象であることが示唆された。