3-1 結果(その1)

 図1は10月11月平均のSAM指数(上段)とF10.7(下段)を年毎にプロットしたものである。図中で黒丸が高太陽活動年、白丸が低太陽活動年である。高太陽活動年は15年、また低太陽活動年は18年とほぼ同じ程度の年数となった。

 図2は10/11月平均のSAM指数を基準とした10/11月平均の850hPa高度場の相関を高太陽活動年(HS)と低太陽活動年(LS)で比較したものである。ここで影は0.4以上、コンターは0.5以上に施してあり、0.5が大体95%有意な相関値である。図を見ると、HSでは環状モードの南極中心がLSの時と比べてより太平洋側、大西洋側に拡がっていて大きくなっている。特に太平洋側への張り出しが大きくなっている。このことは、Kodera(2002)の見出した北半球NAOに見られた性質によく似ている。ただ、NAOの場合ほどの極端な違いはない。

 図3は10/11月平均のSAM指数を基準とした10月から3月の帯状平均した850hPa高度場の相関をHSとLSで比較したものである。図よりHSの時には10/11月時のSAM信号が3月頃まで弱まりながらも続くのにLS時には12月までしか続かないことが分かる。この点はOgi et al.(2003)の北半球NAOの場合とよく似ているが、NAOより単純でHSの場合に高緯度側は時間と共にその信号が減衰している。

fig.1
図1、年毎の10月11月平均のSAM指数(上段)とF10.7(下段)。黒丸は高太陽活動年、白丸は低太陽活動年を表わす。

fig.2
図2、太陽活動の高い場合(左図)と低い場合(右図)における10/11月平均のSAM指数を基準にした850hPa高度場の相関。コンター間隔は0.1でコンターは0.5以上に引いてある。陰は0.4以上。破線は負の値を表わす。

fig.3
図3、図2と同様。ただし、10月から3月までの帯状平均した850hPa高度場の相関

 図4は10/11月平均のSAM指数を基準とした10月から3月の帯状平均東西風の相関をHSとLSで比較したものである。HS時には下方から伸びてくるSAM信号の他に低緯度上部成層圏から降りてくる信号が現われ、これが10月にくっ付き合い11月には地面から上部成層圏まで伸びた信号となる。上部成層圏の信号は弱まっていくがSAM信号が上部成層圏まで伸びる状態は12月まで維持され、それ以降少しずつ弱まっていく。しかし、下部成層圏にある信号中心は2月になってもなお有意な強度を保っている。それに対し、LS時にはSAM信号は最も信号の強い11月でも対流圏内までしか伸びていない。また、その持続性は悪い。この信号がHS時に上部成層圏まで伸びるという性質はKodera(2002)の見出した北半球NAOのものとよく似た性質といえる。

fig.4
図4、図3と同様。ただし、10月から2月までの帯状平均東西風に対する相関。

 HS時における夏から秋のSAM信号をよく見てみると信号は下部成層圏を中心として持続している事が分かる。このことは、この信号のメモリーが地表ではなく下部成層圏の「何か」である事を示唆している。下部成層圏でメモリーになりそうなものと言えばオゾンが想起される。そこでHS時におけるSAM信号の持続の良さの原因を調べるためにHS時における10/11月平均のSAM指数に対する温度場とオゾン濃度の相関図を図5に示す。ここでオゾン濃度はERA40で用いられているものを用いている。ERA40のオゾン濃度は観測値ではなく、気象場から簡易モデルで計算されたものを観測されたオゾン全量と整合するようにして作られたものであるため必ずしもオゾン濃度の真実を表わしているとはいえないが、あまり適切なデータも存在しないのでとりあえず使った。

 図を見ると、SAM指数と11月の極域全体のオゾン濃度との相関が低くなっているが、このような負相関域が3月までも主に下部成層圏に残っている。このようにオゾン濃度の相関が下部成層圏で低い事に対応し、気温との相関も下部成層圏でずーと負のままである。このことは、下部成層圏での熱源がオゾンであり、またオゾンは下部成層圏では非常にその寿命が長い事を考えると、HS時で正のSAM指数の時(極域の850hPa高度場偏差が負となる状態)には極域のオゾン濃度偏差が負となり、その状態が夏以降まで持続する事によって下部成層圏の気温が低めのままになっていることが示唆される。そして、温度風の関係からこの気温偏差が図4の東西風偏差を作っていると考えられる。従って、正のSAM指数の時に11月に極域でオゾン濃度偏差が負であることがキーであると思われる。では、11月の極域のオゾン濃度がなぜ低いかであるが、風の場を見ると(図4)HS時で正のSAM指数の時には上部成層圏まで正相関域が伸びている。従ってこの時には上部成層圏での波減衰が小さく、従って熱帯上部成層圏から極域へのブリュワー=ドブソン(BD)循環が弱くなっていると考えられる。このBD循環の弱まりが極域のオゾン量の負偏差を導いていると考えられる。

 結局、SAM信号の持続性の良さは下部成層圏でのオゾン濃度の持続性に依っていると考えられる。そして、HS時でSAM指数が正の場合に極域のオゾン濃度が小さい事は10/11月に東西風信号が上部成層圏まで強い事から来ていることになる。図4で見たようにHS時に10/11月に亜熱帯上部成層圏からの信号とつながって信号が上部成層圏まで強いまま伸びるということは、SAM同期の信号がHS時により成層圏でより強い波平均流相互作用を引き起こすという事を示唆している。実際、HS時とLS時における平均東西風の違いを見るとHS時の方がその領域で平均的に風が弱い(Kuroda and Kodera, 2002)。これが、HS時に波平均流相互作用をより強めているのに役立っていると考えられる。以上では、SAM指数が正の場合のメカニズムを考えたが、負の場合も全く同様であることに注意する。つまりHS時にSAM信号は上部成層圏まで伸びると共に持続性が良くなるのは、SAM指数が正負いずれの場合でも成立することに注意しなければならない。

fig.5
図5、図3と同様。ただし、11月から3月までの帯状平均気温(上段)とオゾン濃度(下段)に対する相関。

 さて、ここではSAM信号持続の原因としてオゾンを考えたが残念ながらERA40のオゾンデータは信頼性に欠けるので、現実をうまく再現できるモデルによるより一貫した実験の解析が望まれる

 そこで、気象研究所の化学気候モデルを用いて太陽活動に伴うSAM信号変調問題を調べた。モデルは、紫外線強度を太陽活動が高い状態(HS)と低い状態(LS)のものに固定した上で同一の気候状態からランを始めて季節変化のみを含む海面水温の境界条件のもとでそれぞれ21年のランを実行した。図6の上2段はこのようにして得られたモデルのHSランの帯状風とオゾンの気候値と変動について11月から3月までの時間進行を示したものである(LSランの風の気候値はHSランと殆ど同じだったので示していない)。また、図6の最下段はオゾン濃度のHSとLSの違いを比(%)で表したものである。東西風でみるとHSとLSの気候値は殆ど変わらなかったが、オゾン濃度はHSの方が2、3%程度成層圏で大きくなっていることがわかる。また、11月極域下部成層圏に見られるオゾンの減少域はオゾンホールの形成によるものである。しかし、東西風の時間進行を観測データのものと比べると分かるが、このモデルの極渦の崩壊時期は現実のものと比べてほぼ一ヶ月ほど遅れている。このような極渦崩壊期の遅れは世界の多くのモデルで見られるものであるが、このような極渦崩壊期の遅れに対応し、モデル中での基準となるSAM指数は一ヶ月遅れの11月12月平均とした。但し、SAM指数は観測と同様にモデルの850hPa高度場から計算している。

fig.6
図6、HSランの21年分の11月から3月までの帯状平均した東西風(1段目)、オゾン濃度(2段目)の気候値(コンター)と変動度(影)。3段目の図はオゾン濃度のHSとLSランの差を比の形で示したもの。但し影は統計的有意性を示すステューデントのt値を示している。コンター間隔は10m/s(1段目)、1ppmv(2段目)、1%(3段目)で、影は2、5、10m/s(1段目)、0.1、0.2、0.5 ppmv(2段目)、2(95%有意)、4、6(3段目)である。

fig.7
図7、図3と同様。ただし、化学結合モデルの11月から4月までの帯状平均850hPa高度場対する相関。影は0.44(95%有意)以上、コンターは0.5以上に施している。

図7はこの基準SAM指数を元にして、観測の図3と同様にして計算された帯状平均した850hPa高度場の相関をHSとLSで比べたものである。図から分かるように、観測と同様な太陽活動によるSAMがこのモデルで再現されていることが分かる。実際、11月12月平均SAM指数はHSではほぼ4月までも南北双極子的な構造が持続しているが、LSでは既に1月には殆ど南北双極子的な構造が消滅しているからである。  図8は11月から3月までの東西風についての相関を比較したものである。観測と良く似てHSでは極渦崩壊期(11、12、1月)には信号が上部成層圏まで伸びているがLSでは変動が概ね対流圏内に留まっている。さらに高緯度下部成層圏を中心とする南北双極子的信号はHSでは南半球の夏季(1、2、3月)にまでも持続しているがLSではほぼ消滅している。このように、化学気候モデルで太陽活動によるSAMの変調が概ね再現された。

fig.8
図8、図7と同様。ただし、11月から3月までの帯状平均東西風に対する相関をHSとLSで比較したもの。

 そこで、まず極渦崩壊期における太陽活動によるSAM信号の鉛直方向の伸びの違いが何から来ているかを見るために、11、12月の波の活動とオゾン濃度と残差速度を比較した(図9)。図から分かるように、HSの11月12月には成層圏へ伝播するSAMに相関するたくさんの波が存在して、成層圏で平均流にたいする大きな波加速を引き起こしているが、LSでは成層圏へ伝播するような有意な波が存在しない。そして、HSで11月に低緯度中部成層圏に現れて12月には高緯度下部成層圏へと移動する波加速は、SAM指数が正の場合にはブリューワードブソン循環を弱める向きの子午面循環を作る。その結果、極域下部成層圏へ運ばれるオゾンは減少しそこにオゾン信号を作っていると考えられる。それに対して、LSでは成層圏の波がSAMに相関しないから波加速もブリューワードブソン循環も相関せず結果としてオゾンも相関しなくなると考えられる。では、なぜHSにSAMに相関した波が成層圏まで有意に伝播できるのかということが次に重要な問題になるが、ここでは当面その問題は棚上げし、先に観測データの解析で見たように、果たしてこのように晩冬期に作られたオゾン信号が晩冬期以降にメモリーとしての役割を果たしているのかどうかについて調べてた。

fig.9
図9、図7と同様。ただし、11月から12月までのEPフラックス、その加速(上段)、オゾン濃度、残差循環(下段)に対する相関をHSとLSで比較したもの。

 図10はHSにおける11月から3月までの温度場とオゾン濃度を比較したものである。図からHSには観測と同様にモデルでも大きな温度場とオゾン濃度の相関が伴っていることが分かる。よって、このモデル結果から、観測の図で得られたオゾン信号も現実を捉えていたものと考えられる。そして、オゾンは成層圏の加熱源であるので、このような晩冬期のオゾン偏差が原因となって夏季の気温偏差が作られているのではないかと考えられる。このようなオゾン偏差を原因とした温度偏差から、ではどのようにして夏季のSAMが作られるであろうか。まずはやはり温度風を原因として東西風偏差が作られるのだと考えられる。晩冬期のSAMが正の場合には夏季に極域下部成層圏がオゾンが少ないことを原因として例年より冷えるので、温度風の関係から高緯度で西風が強まる。するとこの東西風偏差のせいで対流圏を伝播する主に総観規模の波の伝播経路が変化する。このようにして、これらの対流圏起源の波による波加速の偏差が形成されることになる。図11はモデルのHSにおけるオイラー波加速の相関を示したものであるが、実際に2、3月の対流圏高緯度に大きな運動量波加速が作られていることが分かる。このような運動量波加速はオイラー子午面循環を形成するはずであるが、図11を見ると確かに波加速と対応したような子午面循環が形成されている。このようにして、低緯度の下降流側は高気圧、高緯度の上昇流側に低気圧が形成され結果としてSAM型の変動が作られているのだと考えられる。

fig.10
図10、図7と同様。ただし、HS における11月から3月までの温度場(上段)とオゾン濃度(下段)。

fig.11
図11、図7と同様。ただし、HS における11月から3月までのオイラー運動量加速、子午面循環(上段)と熱加速、子午面循環(下段)。