気象庁気象研究所気候研究部黒田友二

中間規模波動が南半球環状モードに果たす役割



1.はじめに

中間規模波動というのは、日々の天気を支配している高低気圧で卓越している波動である総観規模波動の波長5000km程度と、前線や台風などの大きさ程度の大きさを表すメソスケール(2000km以下)との中間程度のスケールの波動である。これは典型的には2000-3000km程度以下の波長を持つ波動であり、総観規模とメソスケールの「中間の」水平スケールを持つ波動ということから発見者である佐藤ら(Sato et al., 1993)によって命名された。この波動は、最初日本の上空で見つけられたが、佐藤らは、その後全球データの解析によって(Sato et al., 2000)、南北両半球の中高緯度に普遍的に存在している波動であることを見出している。しかし、今までこの波動の気候学的な役割については分かっていなかった。

ところで南半球の極域には、南半球環状モード(SAM)とよばれる半球規模の卓越する変動が存在している。これは、南極大陸付近と南緯45度付近での地表面気圧のシーソー的変動を示す、ほぼ帯状対称な変動パターンである(Thompson and Wallace, 1998; Limpasuvan and Hartmann, 1999; 2000)。今回この変動の形成維持に対して中間規模波動が重要な役割を果たしていることを見出したので、本論文にて簡潔に報告したい。なお詳細については、論文(Kuroda and Mukougawa, 2011)を読んで頂きたい。



2.データと解析方法

本論文ではECMWFが作成した最新の再解析データであるERA-Interim(Dee et al., 2011)を用い、1989年1月から2009年12月までの21年分の6時間ごとのデータについて解析した。また、月平均データに基づき、SAM指数との相関や回帰を計算した。摩擦力や非断熱加熱のような、データで陽に与えられていない緒量については、6時間ごとのデータを運動方程式に代入し、方程式の残差として求めた。波加速などの二次の量は、6時間ごとに積を求めた結果を月平均した値を用いた。

本論文では、Sato et al.(2000)に基づき、総観規模波動は周期が2日〜6日の波動、中間規模波動は周期が1.75日以下の波動として濾波した。実際の濾波は、バンド幅が30日のランチョスフィルターを用いた。さらに、中間規模波動として潮汐成分が含まれないように、ハイパスフィルターしたデータから波数0〜2の成分を取り除いた。

SAMは、Thompson and Wallace(1998)に従い、季節変動を取り除いた30°S以南の850hPa面の月平均場変動のEOFの第一成分とした定義した。このSAM成分は全体の変動の28%を説明し、第二成分(11%)に比べて十分卓越していた。

さて、波動がSAM変動に与える寄与を見積もるために、ここでは球面上のプリミティブ方程式を元にした力学的診断を行った。基本となる方程式は以下の通りである:

ここで、各項は

で与えられる。また、は摩擦(非断熱加熱)、を基本場の温度とした安定度、Ωは地球の自転速度であり、バーは帯状平均、ダッシュは帯状平均からの偏差であり、他の記号は慣例に従っている。なお、は波の運動量強制、は熱強制に相当する。それぞれの強制で、後者の項は鉛直速度と関係する。さらに、は運動量方程式(熱力方程式)の移流項、バランス風の破れをあらわしている。なお、方程式(1) (2)は式的には変形しているものの、省略無しのプリミティブ方程式を帯状平均しただけのものである。

ところで方程式(1)は下記の様に線形方程式であるオメガ方程式の形にまとめることができる。

この方程式は線形であるから、右辺の各項のみを与えて方程式を解けば、その項が強制する上昇流を求めることができる。さらに、上昇流が分かれば、式(1e)から南北風、即ち子午面循環も一意に求めることができる。なお、これらの方程式は具体的には帯状ハフ関数とその随伴関数を用いて境界条件を考慮した上で解いた。なお、最下層での境界条件としてはを簡略化して用いた。

ところで、式(1)、(3)は線形であるから、線形演算である月平均を取る操作やSAM指数との回帰を取る操作に関しても、線形性が保たれることに注意すると、各強制項のSAM指数に対しての月平均回帰を式(3)の右辺に与えると、各強制項のSAM変動への寄与を見積もることができる。本論では、このような方法により、各項を診断していく。なお、式(3)は子午面循環に対する診断式であるが、式(1a)の右辺で式(3)(1e)の結果を用いれば東西風加速に対しても同様の診断を行うことができる。また、鉛直気圧速度のモデル最下端での評価から、地表面気圧変化に対する診断も行うことができる。



3.結果

まず気候値について調べてみた。図1は帯状かつ年平均した東西風(a)と各波動の振幅[(b)、(c)]である。図から、帯状平均風の軸は50度付近で、その変動は60度付近で最大となることが分かる。また、波の振幅に注目すると、総観規模波動はピークで87mほどもあるが、中間規模波動は28mほどであり、総観規模波動の3分の1ほどの振幅しかないことが分かる。一方、両波動の振幅のピークは55°Sの圏界面付近に存在している。

図1、年平均した(a)帯状平均東西風、(b)総観規模波動の振幅、(c)中間規模波動の振幅。コンターは平均値、陰影は変動の大きさを表す。実線は正のコンターを表し、そのコンター間隔は(a)では5m/s、(b) と(c)では10m、陰影は(a)では1、2、3m/s、(b)と (c)では1、2、5mの順に色を濃くしている。

次に、SAMに回帰した変動について見てみる。図2はSAMに回帰した850hPa高度場(a)、東西風(b)、オイラー質量流線関数(c)である。850hPa高度場への回帰パターン(a)は、これまでの研究の結果とほぼ同様の極と中緯度間のシーソー的変動を示す。他方、東西風(b)は40°Sと60°Sを作用中心とする南北双極子的な変動パターンであり、その振幅のピークは60°Sで2.5m/s、40°Sで-1.0m/sである。オイラー質量流線関数については、高緯度では反時計周り、低緯度では時計回りの双極子的構造を示し、地表面気圧の変動パターンとよく対応している。なお、高緯度側のピークの値は、55°Sで5×109kg/sとなっている。

図2、SAM指数に回帰した(a)850hPa高度場、(b)帯状平均東西風、(c)オイラー質量流線関数。実線は正、破線は負のコンターを表し、そのコンター間隔は(a)では10m、(b)では0.5m/s、(c)では5×108kg/sであり、統計的有意性が99.9%以上の領域に陰影を施した。

まず、SAM形成のための各強制項の役割について概観する。そのために、まずは式(3)の右辺の各項について6時間ごとのデータから評価し、それを月平均する。これらの値と月ごとのSAM指数との回帰を計算する。このようにして求められた回帰を式(3)の右辺に与え、方程式を解くことにより、それぞれの強制項が駆動する子午面循環を評価した。また、このようにして求まった各子午面循環と強制項から、式(1a)を用いて東西風加速に対する各強制項の寄与を求めた。また求められた鉛直気圧速度の最下層での値は地表面気圧変化傾向を与える。図3に、全波動(帯状平均場からの全偏差)による波強制の総和、摩擦力、そして、全ての強制項の総和について、子午面循環、東西風加速、地表面気圧変化を計算した値を示す。

この図から、全波動で駆動される子午面循環のピーク値が3×109kg/sであり、摩擦が作る循環と同じ方向でピーク値もほぼ同じであることが分かる。また、全子午面循環はほぼこの2者で決まっていて、その他の強制項からの寄与は小さいことも分かる。

図3、SAM指数に回帰した各強制項によって形成される(a-c)オイラー質量流線関数、(d-f)東西風加速、(g-i)地表面気圧変化。(a) (d) (g)は全波動による運動量強制と熱強制の総和の寄与、(b) (e) (h)は摩擦力の寄与、(c) (f) (i)は、全ての強制項による寄与を示す。実線は正、破線は負のコンターを表し、コンター間隔は(a-c)では5×108kg/s、(d-f)では0.1m/s/dayで、(g-i)の縦軸は1Pa/day。正(負)の領域にピンク(薄青)の色を施している。

ところで、この診断法の計算精度が懸念されるが、このように各項から求められる子午面循環を合計した値(図3c)は、再解析データの南北流と鉛直気圧速度から直接求められた子午面循環の回帰図(図2c)とほとんど同じであるため、その計算精度は十分であると判断できる。実際、図3cでのピーク値は5.5×109kg/sで図2cのそれと比べてやや少し大きめに評価されている程度である。次に、東西風加速をみると、波による加速のピークは0.3m/s/dayで、加速の主要因になっているが、SAMに伴う東西風に働く摩擦が駆動する子午面循環は摩擦層のみならず対流圏全層にわたる減速要因であることが分かる。また、その他の項による加速は小さい。波加速と摩擦による効果はおおよそキャンセルするので、全ての項の和は、極域に存在するノイズ的な値を除くと、ほとんど0となっている。地表面気圧変化傾向も、極域で、気圧を下げる波の効果が摩擦による気圧上昇効果を若干卓越する以外は、ほとんど0となっている。なお、計算では、南極大陸の存在域では各強制項は0と置いた。また南極大陸の存在にもかかわらず 計算を簡便にするためフラットな境界条件を用いて計算しているが、この結果をみると、この境界条件はさほどの悪影響は与えていないと考えられる。

図4、図2と同様、但しSAM指数と総観規模波動(a)(b)および中間規模波動(b)(d)の振幅との相関(a)(c)と、回帰(b)(d)。(a)、(c)のコンター間隔は0.1間隔で0.5以上に等値線を示す。(b)、(d)のコンター間隔は1m。

次にSAMと総観規模波動と中間規模波動の関係について見てみる。図4は、SAM指数と、総観規模波動や中間規模波動との相関または回帰を示している。この図から、両波動とも60°S付近においてSAM指数と共に振幅が増え、反対に35°S付近では減るような双極子的な変動傾向があることが分かる。ただ、総観規模波動とSAM指数との相関は大きくても0.6程度しかないのに対して、中間規模波動の場合は0.8程度という非常に高い値を示していることが分かる。しかも下層ほど相関が高くなる。つまり、総観規模波動よりも中間規模波動はSAMとの関係性が非常に高いことが見て取れる。一方、回帰を見ると、総観規模波動と中間規模波動のピークはともに、対流圏界面付近の300hPaあたりに存在する。但し、相関の大きさの違いを反映して、総観規模波動のピークは5mであるのに対して、中間規模波動のそれは3mであり、この両者の差は気候値での差(図1)ほど大きくないことは興味深い。

次に、総観規模波動と中間規模波動がSAMと関連して駆動する循環を比較した。そのために、図3の全波動の場合と同様の計算を、それぞれの波動について行った。図5にその結果を示す。子午面循環では、総観規模波動はピークが2×109kg/sで全波動の2/3を担っている。それに比べると中間規模波動の寄与は小さいが、それでもピークは0.9×109kg/sと全波動の1/3を担っていることが分かる。東西風加速では、総観(中間)規模波動の作用は60°Sの対流圏下部で0.23 (0.12) m/s/dayと大きく、中間規模波動は総観規模波動のほぼ半分の加速を担っている。すなわち、全波動の加速量のほぼ2/3が総観規模波動で、残りの1/3が中間規模波動の寄与である。地表面気圧変化では、これらの波動の存在域と関連して両波動とも50°Sと70°Sでピークを形成しているだけで、全波動の解析で見られた極域のピークには関与していないことが分かる。なおピークの大きさはおおよそ2対1である。なお、極域の信号はこれらの波動ではなくて、同様に解析を行うことで波数1と3の停滞性の波動に大きくよっていることが分かった(図略)

図5、図3と同様、但し、総観規模波動(a) (c) (e)、中間規模波動(b) (d) (f)の寄与。

さて、先行研究(Lorenz and Hartmann, 2001)によると、SAMの長寿命性は、波が東西風を加速し、東西風が反対に波を生成する正のフィードバックによってSAMが自己維持的に形成されていることに起因すると考えられている。しかし、Lorenz and Hartmann (2001)では、波が東西風を加速する過程も、東西風が波を生成する過程についても陽には示していない。しかし、本論文では式(1a)(1e)(3)から、総観規模波動と中間規模波動が確かに東西風を加速するセンスで働いていることを示すことが出来た。そこで、さらに逆方向の過程についても明示的に示すために、ここではローレンツ流の波と平均場とのエネルギー論を一般化したHolton(1975)による定式化を用いて議論する。この定式化により、帯状場のエネルギーから波のエネルギーへの変換量を見積ることができる。このようにして総観規模波動と中間規模波動について帯状場からのエネルギー変換量を求め、そのSAM指数に対する回帰を計算した。図6にその結果を示す。図の左側のパネルは変換量全体、右のパネルは傾圧変換量(に比例する項)を示す。この図から、両波動とも60°S付近での波の増幅に関しては傾圧変換が主要項になっていることが分かる。また両波動ともに変換量の分布は緯度方向に双極子的で、ちょうど波の振幅分布(図4)とよく対応していることが分かる。つまり、この図は、帯状風が波を増幅させるように確かに働き、双方向のフィードバック過程が形成されていることを示している。

図6、図2と同様、但し、帯状平均エネルギーから総観規模波動(a) (b)、中間規模波動(c) (d)へのエネルギー変換量の回帰。(a) (c)は全変換量、(b) (d)は傾圧変換量。コンター間隔は1×10-5W/m3。

さて、上述の解析からそもそも中間規模波動は主に傾圧変換で生成されていることが分かった。そこで、気候的な意味でのエネルギーと変換項の大きさの比から波が 形成される時間スケールというものをこれら二者の比から見積もることができる。ここでは、20度以南かつ100hPa以下の全領域で気候値的な波エネルギーと傾圧変換量を見積もった。すると得られた総観規模波動の時間スケールは3.9日であり、これに対して中間規模波動は8.0日となった。即ち、中間規模波動の方も不安定ではあるものの、総観規模波動より安定度は高いということが言える。これは総観規模波動が、元々最も傾圧的に不安定な波動、即ち不安定による成長率が最も大きい波ということで定義されていたので当然の結果とも言えるが、中間規模波動も傾圧的には総観規模波動よりは安定ではあるものの不安定な波動であると言える。そこで、総観や中間規模波動という名に囚われず同様な方法で周期帯別の波動の安定度を調べてみた。その結果、2-3日の波動がもっとも不安定で時間スケールは3.6日、1-2日の波動は5.2日、1日以下は35.5日と周期が短いほど波は安定的になっていた。なお、3-6日の波動の時間スケールは4.0日であった。



4.結論

本論文では、中間規模波動が南半球極域の半球規模変動であるSAMの形成維持に果たす役割について調べた。その結果、以下の結論が得られた:

@ 中間規模波動はその気候学的振幅は小さいが、総観規模波動に比べ、SAM指数との相関が高い。このため、SAMに伴う子午面循環と平均帯状風場の加速量のおおよそ1/3は中間規模波動による。なお、総観規模波動は残りの2/3の寄与をしている。

A 中間規模波動は帯状風から傾圧エネルギー変換によって形成される。また、帯状風変動と波の振幅変動との相関関係は極めて高い。

B SAMは波と平均流の正のフィードバックによって維持されている。

C 中間規模波動の水平スケールは小さいので、波動に伴う鉛直流に関係する項(非地項風成分)も総観規模波動に比べ大きく、無視できない。

D SAM変動では短周期波動が重要な役割を果たしているので、日平均データではなく最低でも6時間毎の時間分解能を持つデータを用いて解析する必要がある。

本論では、中間規模波動がSAM変動で果たす役割について調べたが、この波動は全球的に存在することが知られているので、NAMやNAOにおいても重要な役割を果たしている可能性がある。この点について今後詳しく調べる予定である。



引用文献