5 まとめと今後の展望

PJOとAOの統計的関係をまず調べた。正または負のAO指数は特定のPJOの状態で出現しやすいことがわかった。また、AOの寿命を調べたところ、十分大きな振幅のPJOと統計的に好まれる状態にあるAOは寿命が長くなる傾向があることがわかった。

また、PJOに対するラグ回帰解析を行ってPJOに伴う波強制と子午面循環などの時間発展を調べた。特に、波強制の地表面気圧変化に対する影響を球面上の準地衡風EM方程式で診断した。その結果、地表面気圧変化は波強制が駆動する子午面循環によって形成されている事が示された。さらに波強制を分けることによってそれぞれの波強制の役割を調べた。その結果、観測データから見積もった地表面気圧変化に対する効果は、@運動量強制(運動量強制)は全体の60%(40%)、A対流圏内(成層圏内)の波強制の効果は60%(40%)、B波数1の波の効果は65%で残りは大体波数2と3、C全体の15%はトランジェント波成分から来ている、ことが分かった。波強制が駆動する子午面循環による地表面気圧変化は摩擦によるそれとほとんど釣り合っているが、地表面気圧偏差は波強制による地表面気圧変化とよく比例した形で現われることが分かった。

先行研究によるとPJOの成層圏の変動は波数1のプラネタリー波による波平均流相互作用でよく説明できる事が示された。このような変動は、下端から与えた波の振幅が一定の場合でもおきる事が示されている(Christiansen, 1999)。しかし、今回の解析結果をよく見ると、対流圏下層の波伝播も成層圏の東西風とE-Pフラックスの変動と呼応して有意に変動している。実際、60度付近の帯状平均した南北風と対流圏内の熱輸送は非常に高い相関が存在する(図略)。このことは地表面での波形成と波強制を介した子午面循環の間に緊密な関係があることを示唆する。地表面での波振幅は子午面循環を駆動する上部対流圏から成層圏の波強制の形成に大きな影響を持つだろう。従って、子午面循環の強度の一部は地表面の波強度によってコントロールされていると考えられる。この様に地表面での波形成と上部対流圏から成層圏の波強制は子午面循環を介してフィードバックしている可能性がある。この機構はPJOを数ヶ月もの冬季期間中持続させる働きをしているのかもしれない。さらにこの様なPJO形成メカニズムについて研究を進める必要がある。従って、今後モデル実験において地表面状態を変化させるなどの感度実験を行い、PJOを介した対流圏成層圏結合の実体を明らかにしていく予定である。

なお、本研究の詳細についてはKuroda and Kodera(2004, 2007)を参照されたい。

付録

本論文中で子午面循環と地表面気圧変化の診断に用いられた方法はPlumb (1983)やHS89で用いられた球面上の帯状平均した準地衡風方程式をハフ関数展開を用いて解く方法である。準地衡風近似した帯状平均場の支配方程式は次のように与えられる。

(A.1)

ここで、F、Gは渦強制であって、

(A.2)

の形をしている。G 、S はそれぞれ摩擦力と非断熱加熱を表す。μはサイン緯度、ωは鉛直気圧速度、は大気の安定度、Ωは地球の回転速度、a は地球半径であり、ダッシュ量は帯状平均場からのずれ、バーは帯状平均をあらわす。その他の記号は通常用いられている記法にしたがった。(例えばAndrews et al., 1987参照)。また、ここで考えている南北流は本質的に非地衡流であることに注意する。

本論文ではこの方程式を気候平均場からの偏差に対して適用した。それゆえ、渦強制F、Q を含み基本場以外の全ての場の量は偏差場である。下部境界条件は

(A.3)

であり、上端境界条件はω=0である。また側面境界条件μ=(±1 )はυである。ここでは、下端境界条件(A.3)を近似した

(A.4)

の形で用いる。それは、地表面気圧変化量はモデル最下面の気圧値(1000hPa)に対して十分に小さいと考えられるからである。ここで、Φ0は基本場のジオポテンシャルである。

方程式 (A.1)を境界条件(A.4)の元で解くためには全ての場の量をハフ関数Θn(μ)及びその同伴関数Βn(μ)で次式のように展開してやれば良い (Plumb, 1983; HS89):

(A.5)

すると方程式 (A.1)、 (A.4)は 次式のようにpに関する常微分方程式の形に変形する事ができる。

(A.6)

(A.7)

ここでεnはハフ関数のn番目の固有値である。

方程式(A.6)及び(A.7)は診断方程式である。従ってωn(だから(A.1)からω, v,, なども)は与えられた外力に対して一意に定まる。例えば、摩擦も非断熱加熱もなくG=S=0、渦強制F 、Q が時間的に一定ならばω, v,, なども定常、即ち時間的に一定となる。

もし、摩擦力や非断熱加熱がレイリー摩擦、またはニュートン冷却の形

(A.8)

をするとすると、,はもはや渦強制のみでは定まらずu やTの値そのものを考慮しなければならず、以下の方程式を時間的に積分する必要がある:

(A.9)

すると、各時刻ごとに診断方程式(A.6) (A.7)を解きながら予報方程式(A.9)を時間積分することによって全ての場の量を求めて行くことができる。



参考論文

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