4 議論

PJOの時間進行と共に現われるAO的な信号は通常のAOパターンとは北太平洋域の信号中心が北大西洋域の信号に比べて非常に小さい、また北極中心が対称的で北大西洋域にずれていないという点で異なっている。これらは言い換えるとAO的な信号は北極域では波数0が卓越し、中高緯度では波数1が卓越しているという事になる。そして、これは典型的なAOパターンが中高緯度で波数2的であるのとは異なっている。このように、海面気圧偏差パターンで波数1が卓越するというのは、PJOが波数1で形成されているのと関係していると思われる。


図18、図7及び図9と同様。但し、永続する1月モデルランのPC2に対するもの。

波数分解データというのは成層圏でのみ意味があると思われる。それは、成層圏でほぼ東西一様に吹いている風によって成層圏へ伝播する波が波数分解された形で櫨波されるからである。それに対して、対流圏ではそのような機構は働かないので波数分解には特段の意味はない筈である。しかし、解析によると波数1と3の波の振る舞いは対流圏で非常によく似ている。実際、波数3成分のE-Pフラックスはラグ−15日から0で波数1が赤道方向へ伝播する時には同じく赤道方向へ伝播する。これはラグ+15日に上方伝播が強化される場合も同様である。このことは、波数1の波と3の波は一体として強制され伝播していることを示唆している。また、これらの偏差波の位相は気候値のそれ(ラグ0で55度)と同じで合成波は北大西洋上のNAO信号の形成に対応していることは興味深い。

成層圏変動による対流圏地表面気圧変化の誘導について、Black(2002)、Ambaum and Hoskins(2002)は成層圏でのポテンシャル渦度の地表面への影響という観点から調べている。しかし、この方法はバランス問題を楕円方程式の逆問題として解いているに過ぎず、なぜ成層圏が対流圏に気圧偏差を作り出しうるのかという物理的な問題をまともには解いていない。その点で言うとSigmond et al. (2003)は本論文と同様に子午面循環による質量の移動という観点から気圧変化を調べていて妥当である。ただ、彼らの研究は極域の気圧変化と子午面循環の関係にのみ興味が絞られていて本論で見たようなAO形成議論にまで深められていない。

Sigmond et al. (2003)は冬季の成層圏の質量フラックス信号は対流圏のそれに対して約1日先行している事を示した。この小さな時間差を準地項風EMモデルで表現する事はできないが、この時間差はPJOの時間スケールに比べて非常に小さいので本論文での準地衡風近似の使用は正当であろう。Sigmond et al. (2003)の解析した先行する成層圏信号は図11で対流圏起源の波強制の流線関数が対流圏内で閉じている事を考えると成層圏起源の波強制の応答であると考えられる。

帯状平均東西風のラグ相関図(図4、図17)をみると、中部対流圏に相関の極小値が存在し、地表に向かって再び相関が増大しているのが分かる。このことは、下部対流圏の東西風は直接成層圏の風で駆動されているのではなく、特に地表近くでは子午面循環を通じて駆動されていることを示している(Sigmond et al., 2003)。実際、南北風の相関は地表で有意に高くなっている(図8)。

本論文ではそれぞれの波強制による地表面気圧変化を診断方程式から見積もった。この地表面気圧変化は摩擦が存在するので結果としてどのような地表面気圧偏差をもたらすかは決して明らかではない。そこで、特定の波強制だけを与えてEMモデルを時間積分する事によってこのことを調べてみた。その結果、積分によって得られる地表面気圧偏差は地表面気圧変化とよく比例していることが確かめられた(図略)。この結果は次のように説明できるだろう:PJOのようにゆっくりした変動では地表面気圧変化と同様に、運動量トルクとしての波強制と地表面摩擦も各時刻でよく釣り合っている。だから摩擦力はその時刻の波強制で決まる事になる。ところで地表面気圧の南北勾配は摩擦力をうむ地表面の東西風と比例しているから、結局波強制と地表面気圧の南北勾配が関係する事になる。地表面気圧の南北勾配が決まると地表面気圧分布も決まるから波強制と地表面気圧が関係することになる。以上の結果は診断式による地表面気圧変化は地表面気圧偏差をみつもる有用なツールである事を示している。

本論文ではPJOに伴う子午面循環と地表面気圧変化をEM方程式から見積もった。方程式的にはこれは変換オイラー方程式(TEM)と同等の筈である。しかし、EM系にはTEM系でE-Pフラックス発散一種類しか波強制は存在しないのに対して2種類の波強制が存在している。実際、残差循環はE-Pフラックス発散のみをソースとする方程式から求まるのに対し、オイラー子午面循環は2種類の波強制をソースとする方程式から求まった。だから単一の残差循環は一般に多数のオイラー子午面循環と対応することになる。しかし、正しい質量輸送に対応するのはオイラー子午面循環であって、残差循環ではないことに注意しなければならない。また、下端境界条件はTEM変数のみで書き下せないことにも注意する必要がある。この意味でTEM方程式系は地表面気圧変化を見積もるのに不適切でありEM系の使用が適切である。