3 モデルの冬季ランの解析

3.1 データ

本研究で用いたモデルは気象庁が天気予報用の現業モデルとして使っていたものを気候モデルとしてチューニングし直したものをベースとして気象研究所で開発した物理過程を導入した、MJ98大気大循環モデルである(Shibata et al., 1999)。解像度はスペクトル三角形切断で42、鉛直方向には0.01hPaまで45層を取っている。中層大気では重力波抵抗の代用としてレイリー摩擦が用いられている。このモデルを太陽高度および海面水温を気候値の1月に固定して(日変化は入っている)7200日走らせた。全てのデータはあらかじめ5日平均場の形でストアーしておいて観測と同様の解析を行った(半旬総数は1440)。

このモデルランは、観測データではどうしても考慮しなければならない季節変化をなくすることによって純然たる大気内部変動としてのPJOを取り出すこと、及び観測データの短さをカバーする事、メカニズムの解明のための簡略化の第一歩といった意味合いがある。

3.2 結果

3.2.1 対流圏成層圏結合

境界条件としては1月の状態に設定したが、結果として得られた気候値はむしろモデルの2月のものとよく似たものになった(図略)。この気候値からのずれに対して観測データに対して行ったのと同様な解析を行い、PJOのAO形成過程を調べた。

まず、観測と同様に極点温度偏差のEOF解析を行い、卓越する極点温度パターンを抽出した(図15)。図をみると、観測とEOF1、2の寄与率の順序は逆であるもののモデルのEOF1(2)は観測のEOF2(1)によく似ており、この二つが卓越パターンであるという点はよく似ている。また、この二つのパターンで全極点温度変動の98%を説明でき、その点でも観測と同様であった。観測と同様に極点温度に対する時係数のラグ相関を行った所、観測と同様に下降するパターンが得られた(図略)。ただし、その下降速度は観測よりやや遅く、大体80日で半周期変化する感じであった。また、モデルで観測と同様にAOを計算したところ、観測とほぼ同じようなAOパターンが得られた。但し、AOの信号は観測のものよりやや強く、極点における地表面気圧は−7hPaにもなった(観測は−5hPa程度)。


図15、図1と同様、ただし永続する1月モデルランによるもの。

観測と同様に、PJOとAOの統計的な関係をプロットしたものが図16である。なお、図16では図3と比較しやすいように横軸を観測の場合のPC1と同義であるPC2に縦軸を観測の場合のPC2と同義のPC1として表示している。図を見ると、PDFのピークは(0.3、−0.5)付近にありそこから単調に減少している。またAO指数はPC2の符号とよく対応しており、PC2が正では有意にAO指数は正、PC2が負では有意にAO指数は負になりやすいことなど観測とよく似た結果が得られている。また、観測と同様にPJO空間上の場所とAOの持続時間の関係を調べたところ、同様の関係が得られた。

3.2.2 PJOの時間発展

観測データと同様にしてモデルPC2に対する、帯状平均東西風とE-Pフラックス、海面気圧、帯状平均海面気圧のラグ回帰を計算したものが図17である。但し、先に記したようにここでプロットしたE-Pフラックスは5日平均場から計算してその後30日移動平均されたものであり総観規模の高周波擾乱による寄与は落ちている。しかし、観測データで本解析と同様に5日平均場から求めたE-Pフラックスで同様の図を作成したところ高周波擾乱からの寄与はせいぜい全体の20%程度と小さく全体的な傾向は5日平均場を用いてもあまり変わらなかったことから、この図は図4と対比することができると考えられる。また、先に述べたようにモデルのPJOの下降速度は観測されたものよりやや小さく全体の様子は観測のラグ−30日とモデルの−40日が良く対応しているように見えるので、図でラグは−40日から40日まで取っている。

図からモデルでも観測と同様に時間と共に帯状平均東西風偏差が極向き下向きに移動している。そしてこの東西風の変動はE-Pフラックス伝播の変動を伴っている。実際、ラグ−40日には上部成層圏の高緯度側の西風偏差にE-Pフラックスの弱化偏差が対応している。西風偏差が下降してくるラグ−20日、0と時間が進行するほどに、対流圏ではE-Pフラックスが赤道向きに強化され、ラグ0ではそれに加えて上部成層圏への上方伝播も強化されている。それらはラグ20日にまで弱まりながらも持続している。そしてラグ40日には波伝播はほとんどなくなっている。この、E-Pフラックスと東西風の変動の様子は観測されたものとよく似ている。但し、ラグ40日に東風偏差が極よりに移動する速度は観測よりかなり遅い。


図16、図2と同様。ただし、永続する1月モデルランによるもので横軸はPC2、縦軸はPC1としている。ただし、サンプル数が多いので、右図でスチューデントのtは薄い影は3以上、濃い影は6以上に施した。


図17、図4と同様。ただし、永続する1月モデルランのPC2に対するもの。但し、E-Pフラックスは5日平均場から計算されたもの。また、ラグは−40日から+40日まで表示している。またサンプル数の多さに対応して、影を施した95%有意な領域は相関で0.19以上の領域である。

PJOの時間進行に伴って地表面気圧も変化している。ラグ−40日にアメリカ大陸上にあった信号は東方向に移動し、ラグ−20日で北大西洋振動(NAO)的な変動となり、さらにラグ0で北太平洋や東ユーラシア方面にまで信号が広がり半球的なAO的な構造になっている。この信号はラグ20日でもなお持続しているが、北極と極東の信号はその後も弱まりながらもラグ40日までも形を保っている。このアメリカ大陸から信号が現われ、東に移動しながらNAO/AO的構造に発達していく様子は観測とよく似ている。ただ、ラグ40日までも持続する北極の信号の持続性の高さは観測とは異なっている。帯状平均した気圧偏差の時間発展を見ると、北極域海面気圧の負偏差の持続性の高さに対応して北極信号の弱まりが観測に比べて遅いものの、ラグ0で北極点で−4hPa、55度に節で45度付近に1hPaとその地表面気圧偏差の緯度分布は観測のものとよく相似している。

3.2.3 PJOに伴う波加速と地表面気圧変化

観測データで行ったのと同様にしてオイラー平均波強制、子午面循環及び、EMモデルを用いた波強制による子午面循環と地表面気圧変化を図18に示す。図から、運動量強制がラグ−20日から上部対流圏に現われだし、ラグ0で最大となり、ラグ20日まで持続していること、子午面方向に双極子構造をした熱強制が成層圏で卓越し、その極性がラグ−40日から弱まってラグ0で逆転することなど観測と非常によく似ている。子午面循環の向きも全般的に熱強制が正のところで上昇流、負のところで下降流、運動量強制が正の所で赤道向きとなって、これらの子午面循環を駆動しているのが波強制である事を示唆している。EMモデルによる子午面循環の診断(図18三段目)との比較から、実際にモデルで現われた子午面循環は全体としては波強制によるものとしてよく説明できる事がわかる。また、地表面気圧変化(図18四段目)を見ると帯状平均海面気圧偏差(図17)とよく対応するような時間変化をしていて、ラグ0の極点で大体−0.7hPa/日の大きさである。この量は、観測された波強制を基に計算されたものとほぼ同じ大きさであるが、波加速が5日平均場から計算されたものであり、日量をもとにしたものが15%程度大きくなることを考慮すると、図17で得た海面気圧偏差がこのような波強制に対応して現われたものと思われる。

EMモデルでの診断で、波強制を運動量強制と熱強制に分けて、それぞれの役割を調べたところ、それぞれの波強制による子午面循環、地表面気圧変化の全体的な振る舞いは観測されたものとよく似て、熱強制は鉛直方向に深い子午面循環を運動量強制は対流圏のみの浅い子午面循環を駆動していた(図略)。ラグ0の北極点での地表面気圧変化に対しての効果は、熱強制が全体の60%、運動量強制が40%と観測とは異なって熱強制の効果の方が大きかった。また、成層圏と対流圏で波強制を分けた診断を行った所、この結果に対応してラグ0の北極点での成層圏の波強制の地表面気圧に及ぼす影響は対流圏のそれよりやや大きかった。この辺はモデルバイアスのせいかもしれない。