2 観測データの解析

2.1 データ

本研究で用いた観測データは、アメリカ環境予測センター/気候予測センター(NCEP/CPC)作成の衛星データと、アメリカ環境予測センターとアメリカ大気科学センター(NCEP/NCAR)共同作成の再解析データである(Kalnay et al., 1996)。衛星データは、欠測のない場合に高度場と温度場のみが一日一回12Z時に提供されたもので、これをもとに欠測のある場合は時間的に内挿し、さらにRandel(1992)によるバランス風の関係を仮定して全球の東西風と南北風を計算している。但し、1996年から1997年のほぼ1年の北半球データ大欠測に対しては、イギリス気象局(Met Office)作成の衛星データを用いて補正をした上で代用した。衛星データからこのようにして70hPaから成層圏界面付近の1hPa高度までのデータが得られた。データ期間としてはルーチンの衛星データが得られるようになった1979年以降2000年までを用いた。NCEP/NCARの再解析データも同期間のものを用い、一方は先の衛星データの対流圏部分(100hPa以下)を補うために用いて地表から1hPaまでの一貫したデータセットとし、他方では同期間の10hPaまであるフルレベルのデータセットとした。両データは適宜使い分けて利用した。

2.2 解析方法

解析手法としては、PJOを指標とするインデックスに対しての回帰解析を行なった。PJOは位相的に変動する現象であるため、PJO指数としてはKodera et al.(2000)の手法に準じて80度以北で定義した高度場のみの関数である極点温度のEOF1、2の時係数(PC1、2)を用いた。他方北極振動(AO)についてはThompson and Wallace (1998,2000)に従って北緯20°以北の地表面気圧のEOF1で定義した。これらの指標ははじめに11月から4月までの気候値からのずれに対する月々変動のEOFでパターンを定義した後、6半旬(30日)移動平均を行った偏差場との内積を取る事により半旬ごとの時係数を求めた。回帰解析などはこの半旬ごとの時係数をもとに行った。

2.3 結果

2.3.1 対流圏成層圏結合

まず、21年分の11月から4月までの極点温度を用いてその偏差場のEOF解析から主要変動パターンを抽出した(図1)。EOF1、2パターンとも対流圏に変動を伴わずほとんど成層圏内部の変動を記述している。全変動に対する寄与率はEOF1が60%、EOF2が33%であり、この二つで全変動の93%を記述している。このうちEOF1は20hPa付近に節を持ち、その上層で正、下層で負の構造を持つ変動であり上層は2hPaにピークを持っており、下層は100hPaにピークがある。それに対してEOF2はピークが10hPaにあって1hPaが節となる全層が正である構造をしている。

EOF1、2の時係数(PC1、2)で張られる空間(以下PJO空間と名づける)を考えると、温度偏差の下降(Kuroda and Kodera 2001)に対応して各点は時間と共に半時計回りに移動する傾向がある。このことは、言い換えればPC1とPC2はラグを持った相関があることになる。このことを明瞭に示すために、極点温度偏差場とPC1、あるいはPC2とのラグ相関を求めた(図2)。図より明らかに極点温度偏差場は時間と共に下降する傾向があり、またPC1とPC2は大体ラグ30日程度で相関していることが分かる(例えばPC1のラグ−30日のパターンは大体−EOF2のパターンになっている)。従ってPJOに伴う変動の時間発展はPC1、またはPC2のラグ相関から調べることができる。

さて、PJOに伴う変動の時間発展を調べる前にまず本データを用いて対流圏成層圏結合についてその存在をよりはっきりした形で示してみた。まず、PJO空間中の11月から4月までの半旬ごとの状態ベクトルの分布を考える。21年間では、この期間の半旬の総数から803個の点が得られることになる。しかし、点の分布は不規則であるのでPJO空間上で0.5ごとの格子点で状態ベクトルの数を半幅0.5でカウントすることによって存在密度関数を計算できる(図3a)。図を見ると、PJO空間上の点の分布は(0.5,-0.5)にピークを持ち、遠方へ行くほど急速に数が小さくなるような分布をしていることが分かる。さらに、半旬ごとのAO指数から、PJO空間上の各点の平均AOインデックスとその偏り方を表すスチューデントのt値を計算した(図3b)。これを見ると、大雑把に言ってPC1が正の領域はAO指数が正、PC1が負の領域ではAO指数が負となっている事が分かる。さらにスチューデントのt値を見ると、(1,-0.5)を中心とした領域ではAO指数は99%有意に正に偏り、反対に(-1.5,0)を中心とした領域では有意にAO指数が負に偏っている事が分かる。このように統計的に言ってPJOの状態がAOの状態と強く関係している事がわかった。


図1、北極点温度についてのEOF1、2の鉛直構造の回帰(K)


図2、PC1、およびPC2による北極点温度のラグ回帰図。コンター間隔は1K、影は統計的に95%有意な領域に施してある。


図3、(a)状態ベクトルの数(PDF)、(b)平均AO指数(コンター)及びスチューデントのt値(影)。コンター間隔は(a)は10、影は6以上(bでスチューデントのt値を計算した範囲)で、(b)は0.5で薄い(濃い)陰は2(4)以上を表す。

次にAOの持続時間とPJOの状態との関係を調べた。AOの持続時間としては、AO指数の絶対値が1を超える時間の長さで定義した。また、PJOの状態はAOの持続期間の中間時刻におけるPJOの場所(振幅、位相)で定義した。表1はPJO振幅の大小(PJO空間の原点からの距離)とAO指数の正負に分けてAOの平均持続時間(半旬単位)を調べたものであり、括弧はサンプル数を示している。表よりAO指数の正負に関わらずPJOの振幅が大きい場合の方がAOの持続時間が長い傾向があることが分かる。さらに、PJO振幅が1以上の場合にPJO空間のPC1の正負に分けてその持続時間を調べたものが表2である。表よりAO指数が正の場合はPC1が正、AO指数が負の場合はPC1が負である領域、即ち図3bからPJOとAOが強く関連しあっている出方の場合にはAOの持続時間までもが長いことが分かる。このように、PJOとAOが強く関連し合っている事が示された。

表1


表2



2.3.2 PJOの時間発展

まず、PJOに伴う現象の時間発展を見るために、PC1時係数に対する諸量のラグ回帰解析を行った。ラグ0としては、毎年の12月半ばから3月半ばまでの時係数をとり、その時間を基準として前後に7半旬(35日)までのラグを計算した。図4は帯状平均東西風とE-Pフラックス(上段)、海面気圧(中段)、帯状平均した海面気圧(下段)を表している。ただし、ここでのE-Pフラックスは日平均場から求めたものを6半旬移動平均して求めている。また図で影をかけた領域は場の値が正または負であることが統計的に95%有意な領域(PC1との相関係数が0.25以上の領域)を表している。図上段から、時間発展と共に帯状平均東西風偏差がE-Pフラックスの変動を伴いながら極向き下方へと移動している様子が良く分かる。ラグ−30日からラグ30日までの時間発展はKuroda and Kodera (2001)で得られたラグ1ヶ月目から3ヶ月目までの時間発展とそっくりであり、この期間でほぼ半周期の時間発展が得られていることに注意する。帯状平均東西風の変動とE-Pフラックスの変動がよく対応していることにも注意する必要がある(Kuroda and Kodera, 1999)。実際、ラグ−30日から−15日までの上向きE-Pフラックスの弱化には成層圏での東西風の強化が対応しているし、反対にラグ0時からあとの上向きE-Pの強化には東西風の弱化と東西風偏差の極向き下向きの移動、逆に弱風域の上部成層圏での広がりが対応している(ラグ+15日から+30日)。このように帯状平均東西風の変動がE-Pフラックスの変動と対応しているということは、この変動(PJO)が波平均流相互作用から来ていることを示唆している。


図4、PC1による帯状平均東西風とE-Pフラックス(上段)、海面気圧(中段)、帯状平均海面気圧(下段)のラグ回帰図。コンター間隔は、東西風は2m/s、海面気圧は1hPa、E-Pフラックスは気圧の逆数でスケールして表示している。参照矢羽の大きさは、水平(鉛直)は1000 hPa 上で 2×107Kgs-2(1×105Kgs-2)、10 hPa上で 2×106Kgs-2(1×104Kgs-2) である。

次に海面気圧偏差を見ると(図4中段)、ラグ−30日から0までの正の東西風偏差の下方伝播に対応してラグ0でAO的な変動が現われている。このことは、先行研究の結果(Kuroda and Kodera, 1999; Baldwin and Dunkerton, 1999; Christiansen, 2001)とも一致するし、図3bでのPJOとAOの相互関係(PC1正の領域ではAO指数が正になりやすい)に対応していることに注意する。AO的な信号には対流圏での弱風域向きの強いE-Pフラックス偏差が対応していること(Limpasuvan and Hartmann, 2000)にも注意する。ただ、ここで現われたAO的な信号は通常のAO信号と比べて北太平洋側の信号が非常に弱い特徴を持っている。帯状平均した海面気圧偏差図(図4下段)はラグ−5日に極点偏差が最小になる海面気圧偏差の時間変化を簡便に示してくれている。

次に、波平均流相互作用について見るために、PC1に対するE-Pフラックス発散加速度(図5上段)と帯状平均東西風加速度(図5下段)のラグ回帰を計算した。図を見ると、成層圏ではE-Pフラックスに伴う加速量は帯状平均東西風加速度と量的には2倍程度大きいもののよく対応している事が分かる。ただし、対流圏ではE-Pフラックス加速は複雑な構造をもっているが帯状平均東西風加速度はそのような構造をもたず、E-Pフラックス加速による診断はうまくいっていないことが分かる。E-Pフラックス加速による診断が対流圏でうまく行かなくなる理由の一つは地表面の存在であって、一般に境界条件そのものも加速の原因になるからである(Haynes and Shepherd, 1989; 以下H89と略称)。しかし、変換オイラー平均法(TEM)系においては下部境界条件は非常に複雑になり、TEM変数のみでは書き下す事ができないという欠点がある。また、このこととも関係するがTEM系では地表面気圧変化を扱う事も容易ではない。

そこで、以下ではオイラー平均(EM)系でもって波平均流相互作用を扱い、また地表面気圧変化を見積もる事にする。

2.3.3 PJOに伴う波強制と地表面気圧変化

さて、EM系には波加速として運動量加速と熱加速の2種類が存在する。運動量加速はそのうち第一義的にに東西風を加速する量であり、他方熱加速は温度変化に関わる量である。式的には、運動量加速は運動量の南北輸送の南北発散であり、熱加速は温度輸送の南北発散である。例えば、運動量輸送は運動量の南北輸送を表すから、もし南北発散が正であればその領域では入るよりも多くの運動量が出て行くことになり、運動量を減らす方向に加速する事になる。熱加速についても同様の解釈ができる。しかし、運動量方程式と熱の方程式は他の方程式と共に連立されているのでどちらの加速も回りまわって運動量と温度変化の両方の変化に寄与している。


図5、図4と同様。但し、E-Pフラックス発散(上段)および帯状平均東西風の時間変化(下段)。コンター間隔はE-Pフラックス発散(上段)および帯状平均東西風の時間変化(下段)。E-Pフラックス発散(東西風の時間変化)のコンター間隔は0.2m/s(0.1m/s)。

波加速の性質は明らかに運動量輸送、または熱輸送の性質を受け継いでいるので、まずはPJOの時間発展に伴うこれらの変化を調べることにする。図6はPC1に基づく渦輸送のラグ回帰である。ここでE-Pフラックスの鉛直成分は熱輸送、水平成分は運動量輸送と比例しているから図4で得たE-Pフラックスの時間発展とこの図の渦輸送の時間発展がよく対応していることに注意する。さて、図を見ると運動量輸送についは上部対流圏の北緯50度付近に極大点が存在しており、これは場所的には移動せず時間と共に値が大きくなりラグ−5日でピークとなり再び小さくなるようなふるまいをしている。これはE-Pフラックスで言うと図4で見られるようなラグ0でのE-Pフラックスの赤道向きの偏差が強化されているのに対応している。これに対して熱輸送は空間的には上下方向に突っ立った構造をしており、振幅が上部成層圏に向かって急激に大きくなるふるまいをしている。しかし時間的には、ラグ−30日には負の大きな値だったものが時間と共に増大し、ラグ+5日に最大となって時間と共に徐々に小さくなっているような変化をしている。この様子は図4で見られたE-Pフラックスの上下方向の伝播の時間変化に対応している。E-Pフラックスの南北成分の南北発散がEM系での運動量加速に比例しており、熱加速はE-Pフラックスの鉛直成分の(鉛直発散ではなく)「南北発散」に比例している事に注意する。


図6、図4と同様。但し、運動量輸送(上段)と熱輸送(下段)。運動量輸送(熱輸送)のコンター間隔は2m/s(2mK/s)。

さて、図7はPC1に基づく運動量強制、および熱強制のラグ回帰図である。この図で矢羽根は子午面循環の回帰を表している。運動量強制を見ると(上図)加速中心が対流圏と成層圏から下降してくるもの2ヶ所あることに気が付く。このうち、対流圏の強制中心はラグ−15日目に300hPa、北緯65度付近に現われ、ラグ0で成層圏の強制域とくっつくようになり、それから弱まりながらも成層圏強制域とラグ15日までくっついて存在している。この強制中心は図6aの対流圏の運動量輸送の極側の勾配から来ていて、メトリック項のせいで亜熱帯側の勾配よりも大きくなっているのである。他方、成層圏での強制項はラグ−30日に北緯80度70hPaに現われ、これが時間と共に下降伝播しラグ15日には85度300hPaに達している。そしてこの信号の上部には負の強制を伴ってやはり下降伝播している。この信号についても元をたどると成層圏から下降する運動量輸送にさかのぼる事ができる。波数分解データによると、この下降伝播は帯状波数1の波から来ており、他方対流圏の信号は波数1から3までの波の組み合わせでできていることが分かった。

熱強制に関しては、空間的には大まかにみると鉛直方向に突っ立った南北方向には双極子構造をしている。そして時間的にはラグ−30日には高緯度側が負の極性であったものが、時間と共に振幅が小さくなりラグ−15日には振幅がほとんどなくなり、極性がひっくり返り(高緯度側が正となって)ラグ+5日にピークを打ってそれ以降振幅が小さくなっているがラグ+15日にもなお大きな振幅を持っている。このような時間的に振動的な構造は特に成層圏で顕著であるが、対流圏ではどちらかというと赤道側にゆっくり移動して信号が見える。主に成層圏で見られるこのような子午面方向に双極子的な構造は、元をたどれば図6bで現われていた単極私的な熱輸送の構造を南北方向に微分したことに由来している。帯状波数分解データを調べると、この子午面方向に双極子的な構造は主に波数1の波から来ているが、対流圏では波数1から3の波の組み合わせであった。熱強制は対流圏では小さいが高度が高くなるにつれて急激に大きくなっている。これに対して運動量強制は高高度でもそんなに大きくはならない。

子午面循環(図7の矢羽)についてみると、鉛直速度は熱強制が正のところで正、負のところで負に、また南北速度は運動量強制が正の所で赤道向き、負のところで極向きになる傾向が見られる。実際、南北速度または鉛直速度のラグ相関パターン(図8)は運動量強制または熱強制のパターンととてもよく似ている。実際、これはPJOのようなゆっくりした変動においては(時間微分は小さいから)、強制と移流がよくバランスすべき事から来ていると思われる。また、鉛直速度のデータは再解析データでは100hPaまでしか利用できないのでここまでしか図示していない事に注意が必要である。また、PC1の地表面付近における南北速度との相関がラグ0から+15日にかけて非常に大きくなる(0.5を超える)ことにも注意してほしい。このことは、Kodera and Kuroda (2003)でも示された、対流圏成層圏結合における子午面循環の重要性を示している。以上の結果より、子午面循環は第一義的には渦加速によって駆動されている事がわかる。


図7、図4と同様。但し、運動量強制(上段)、および熱強制(下段)。オイラー平均子午面循環の回帰も矢羽で示している。運動量強制(熱強制)のコンター間隔は0.2m/s/日(0.2K/s/日)。参照矢羽根の水平成分(鉛直成分)は6×10-2ms-1 (3×10-4ms-1)。

さて、以上の結果から子午面循環は渦強制で駆動されているといっても良いであろうが、これでは議論は定性的にすぎずもう少し定量的な議論が必要である。そこで、以下では準地項風EMモデル(付録参照)を用いて子午面循環と地表面気圧変化を診断する事にする。診断に当たっては、渦強制の気候平均場からの偏差場を与えて得られる子午面循環、地表面気圧変化でもって子午面循環偏差、地表面気圧偏差を診断する。なお、モデルの安定度は冬季平均(12月から3月平均)の温度場から求めた。


図8、図4と同様。但し、南北風(上段)及び鉛直風(下段)のラグ相関図。コンター間隔は0.1であるが、統計的に有意な95%以上の領域でのみ引いている(0.3以上のみ表示)。

図9はPC1のラグ回帰で得られた渦強制を元にして計算された流線関数と子午面循環(上図)、および地表面気圧変化(下図)である。なお、ここの計算ではラグ回帰の結果をソースにして準地項風EMモデルで診断しているが、同じ結果は線形性から各時刻ごとにその偏差場をソースとして準地項風EMモデルで診断した量をPC1で回帰しても得られることに注意する。さて、図を見ると観測された子午面循環の大まかな様子、特に上部対流圏から下部成層圏および極域、はEMモデルでよく再現されている事が分かる。また、地表面気圧変化を見ると、地表面気圧上昇域は鉛直下降流、地表面気圧下降域は上昇流とよく対応していることがわかる。ここで、地表面気圧変化は正しい境界条件である無剥離境界条件 をおくことによって得られたことに注意する。また、ラグ−30日から0までの地表面気圧変化はAO信号の形成と対応して大きくなっており最大値はラグ0の極点での−0.7hPa/日である。その時刻以降は地表面気圧変化は徐々に小さくなりラグ30日には子午面循環の弱化に対応してほとんど消えている。


図9、図7で計算された波強制で駆動される子午面循環(上段)及び地表面気圧変化(下段)。参照矢羽根の水平成分(鉛直成分)は6×10-2ms-1(3×10-4ms-1)で、質量流線関数のコンター間隔は5×108Kg/s2。地表面気圧変化の単位は0.01hPa/日。小さな矢羽は省略している。

なお、ここで行った地表面気圧変化の解析では渦強制単独による地表面気圧変化を見積もっているのであって、この量を直接観測された地表面気圧変化と比べるべきではない事に注意する。実際、後で示すように観測される地表面気圧変化は主にここでの渦強制によるものと帯状平均東西風に対する摩擦効果によるものがお互いに相殺する形で形成されるのである。しかし、摩擦効果はつねに渦強制によるものを打ち消す形で受動的に働く作用である事に注意する。従って、図4と図9を比較して分かるように渦強制による地表面気圧変化は地表面気圧偏差の良い指標になると考えられる。

次に、子午面循環と地表面気圧変化に対する渦強制のそれぞれの項の役割を見るために運動量強制と熱強制をそれぞれ別々に与えてその応答を調べた。図10bは熱強制を与えた場合の結果である。図を見ると、対流圏成層圏にまたがる鉛直方向に深い子午面循環が顕著である。高緯度での子午面循環偏差はラグ−30日の時計回りの極性からラグ15日の半時計回りのものへと変化しているが、これは成層圏域での熱強制の極性変化に対応したものである。極における地表面気圧変化に関しては、子午面循環の変化に対応してラグ−30日の正からラグ0から15日の負へと変化している。これらの結果を渦強制全てを与えた図9の結果を比べると、図7または図9で見られる鉛直方向に深い子午面循環は熱強制にその原因を持っていたことが分かる。しかし、地表面気圧変化についてみると、ラグ0のAO的信号が出現するAO期でも全波強制の40%の寄与をしかしていないことが分かる。

次に図10aは運動量強制のみによる子午面循環、地表面気圧変化を示したものであるが、子午面循環はほとんど対流圏内に限られた600hPa、55度から60度付近を中心とした領域に存在してることが分かる。その半時計回りの子午面循環はラグ−15日目から徐々に大きくなりラグ0でピークとなり徐々に再び小さくなっている。地表面気圧変化も同様にこの子午面循環に対応して変化している。ラグ0の環状期の地表面気圧変化でみると、全体の60%がこの運動量強制からきていることがわかる。

次に、波強制を対流圏と成層圏にそれぞれ分けて与えてその応答を調べてみた(図11)。ここでは、対流圏と成層圏を分ける高度をSigmond et al.(2003)に従って簡単に全緯度で270hPaとした。図から地表面気圧変化の約40%が成層圏の波強制から来ていることがわかる。また、これは熱強制全体の60%にそして全運動量強制全体の30%が対応していることがわかった。また、このように成層圏の波強制において熱強制が卓越し、対流圏の波強制では運動量強制が卓越している(図7参照)ことに対応して、成層圏の波強制による子午面循環と地表面気圧変化の様子は熱強制のみによるそれらとよく似ているし、対流圏の波強制によるものは運動量強制のみによるものとよく似ていることに注意する。


図10、図9と同様。但し、(a)は運動量強制、(b)は熱強制のみを与えたもの。


図11、図9と同様。但し、ラグ0において成層圏(STRATO)と対流圏(TROPO)で別々に波強制を与えたもの。

次に帯状波数分解データを用いて、各波数ごとの波強制の子午面循環と地表面気圧変化に対する寄与を見積もった(図12)。すると、子午面循環と地表面気圧変化に対して、最も大きな寄与は帯状波数1からきている事が分かる。波数1による子午面循環の様子は熱強制(図10b)によるものとよく似ているが、これは成層圏での波強制が主に波数1の波の熱強制から来ていることに対応している。また、極点における地表面気圧変化の全体の65%ものが波数1の波強制から来ているのは興味深い。残りの部分は主に波数2と3でよく説明でき、波数4及びそれより高波数の波の寄与は小さい。特に下部対流圏での子午面循環には波数2の波が大きく寄与している。


図12、図9と同様。但し、ラグ0における全ての波によるもの(ALL)、波数1(WN1)、2(WN2)、3(WN3)、4(WN4+)とそれ以上のもの。

さて、ここまでは、波の強制以外の強制は考えてこなかった。しかし、もし波強制以外の力が働かないなら、一定の波強制に対しての応答は定常であり、帯状平均東西風、温度場は時間と共に線形的に増大する事になる(付録A.9)。しかし、現実にはこのようなことが起こる筈はなく、波強制による東西風、温度場の上昇は摩擦や放射効果によって押さえられる筈である。そこでこの摩擦や非断熱加熱の子午面循環、地表面気圧変化に対する効果を見積もってみた。ここで、これらの非保存量は6時間後とのデータからプリミティブ方程式からの残差として求めた。そして、波強制と同様にしてPC1に対するラグ回帰を求め、さらにそれからEMモデルを用いて子午面循環、地表面気圧変化を求めた(図13)。すると、特に地表面近くの摩擦力は大きな子午面循環、地表面気圧変化を特に亜熱帯域で駆動している事が分かる。地表面気圧変化に着目すると、この効果は波強制によるものとほぼ同じ大きさで符号が逆である。より正確には摩擦力による地表面気圧変化の方が大きくなってしまっているが、再解析データでは観測量で方程式のバランスを破りながらデータを作成していること、摩擦力自体は観測量でないことから、ここでの結果は定性的に理解すれば十分だろう。即ち、摩擦力の効果は波強制によって作られる地表面気圧変化をほとんど打ち消して観測される非常に小さな地表面気圧変化のみが残る。


図13、図9と同様。但し、ラグ−30日、0、30日における非波強制による子午面循環(上段)と地表面気圧変化(下段)。

もっと、首尾一貫した方法で定量的にPJO信号によるAO的信号形成を調べるために、摩擦はレイリー摩擦で、放射効果はニュートン冷却の形を仮定し、観測された渦強制を与えて時間積分する事によって子午面循環と地表面気圧の変化を調べた。ここで、レイリー摩擦係数 ( ) とニュートン冷却係数( ) は高度(z)のみの関数と仮定し次のように与えた:

λ=R0exp(-z/600)+R1{1+tanh((z-20000)/5000)} ............(3.1)

α=N1{1.5+tanh((z-25000)/7000)} ....................................(3.2)

ここで定数は R0=1/(0.5 日), R1=1/(30 日), and N1=1/(10 日)、またzはメートル単位とした。ここで R0 とその高度への依存性は再解析データから大雑把に見積り、R1 は積分の安定性のために導入した。他方、ニュートン冷却係数は放射冷却の時定数が成層圏で4日、対流圏で20日となるように決めた。そして、時間積分は松野スキーム(オイラー後方積分法)を用い時間ステップを0.1日とし、ラグ−35日を初期値として行った(図14)。積分の結果、上部成層圏の東西風のひずみが気になるものの、全体的な東西風の極向き下向きの伝播やラグ0でのAO的な地表面気圧偏差の形成はよく再現されている。また、期待されたように、子午面循環は渦強制のみの場合(図9)と比べて帯状風に伴う摩擦の効果のため強まり、観測されたものとよく似たものとなっている(図7)。


図14、オイラー平均モデルを観測された渦強制を与えながら時間積分して得られた帯状平均東西風(上段)、子午面循環(中段)、地表面気圧偏差(下段)。コンター間隔は東西風は2m/s、質量流線関数は5×108Kg/s2、また破線は負を表す。地表面気圧偏差の単位はhPa。参照矢羽の水平成分(鉛直成分)は6×10-2ms-1( 3×10-4ms-1)で小さな矢羽は省略している。

このようにラグ0付近のAO的信号は、渦強制による地表面気圧の降下作用に対して摩擦による地表面気圧の増加作用がバランスした形で形成されることが分かる。従って、実際のAO的信号の形成においては波強制のみならず東西風と介した摩擦力の効果も重要であると考えられる。