再解析とは

 

 

0. 一言で言うと・・・

 過去の、大気や海洋の循環場・気温場などを、当時の観測デ−タと最新の数値予報モデルを使って、コンピュータで再現する事です。これにより、これまでの気候変動や、過去の異常気象(たとえば、集中豪雨・台風・豪雪など)を詳細に調べる事ができ、そのメカニズム解明に役立てられます。また、数値予報モデルの開発のための検証データ等としても活用されています。

 

1. 大気再解析と海洋再解析

 再解析のターゲットとなるのは、主に大気と海洋です。大気再解析の場合、海洋は海流がなく止まっているものとして、海面水温の情報だけを大気に与えて大気再解析を行います。海洋再解析の場合、海面付近の大気の流れが海洋を駆動しているので、大気再解析で得られた風や気温を利用します。でも、大気再解析は海洋再解析を利用して、海洋再解析は大気再解析を利用すると、なんだか鶏と卵の関係みたいですね。そのため、最近では大気と海洋を同時に計算する大気海洋結合再解析の研究が進められています。近い将来、この大気海洋結合再解析が主流になることでしょう。

 

2. 再解析プロダクト

 再解析で作られるデータの事を再解析プロダクトといいます。再解析プロダクトには、気温・風・水蒸気量といった基本的な物理量から、海面からの水蒸気蒸発量、地面・海面からの赤外線放出量、さらには雨が降る際に水蒸気の凝結熱が大気をあたためる加熱量など、数百種類の物理量があります。大気科学・海洋科学などの研究分野では、これら再解析プロダクトはなくてはならない基盤的データです。さらに、大気科学・海洋科学の分野だけでなく、人工衛星を打ち上げるロケットの効率的・安全な打ち上げ方法、太陽光発電の適地を探すためなど、様々な分野に再解析プロダクトは活用されています。

 

 

気象庁でも電力中央研究所との共同研究により、再解析(JRA-25)を実施しました。図は、冷夏となった20037月平均の地上付近の気温・地上気圧・上空1500m付近の風の平年からの偏差をJRA-25のプロダクトで描画したものです。オホーツク海高気圧の周りを回る風が東風となって東日本の太平洋側に吹き付けて低温となっている様子(「やませ」と呼ばれる現象です)がよく分かります。このように、再解析を使うと、現在起きている現象が平年とどう違うか、定量的によく理解することが出来ます。

 

3. これまでに実施された再解析プロジェクト

 再解析には膨大な人的資源と計算機資源を必要とするので、簡単に作ると言うわけにはいきません。そのため、再解析のための特別なプロジェクトが立ち上げられています。次の表は、これまでに実施された主な再解析プロジェクトです。

プロジェクト名

実施機関

対象期間

対象領域

NCEP/NCAR

NOAA環境予測センター

米国大気研究センター

1948〜進行中

全球

ERA-15

ヨーロッパ中期予報センター

19791993

全球

NCEP/DOE

NOAA環境予測センター

米国エネルギー省

1979〜進行中

全球

ERA-40

ヨーロッパ中期予報センター

19572003

全球

JRA-25

気象庁

電力中央研究所

1979〜進行中

全球

NARR

NOAA環境予測センター

1979

北アメリカ

()「進行中」というのは、再解析と同じ計算システムを使って現在の大気場の再解析をリアルタイムに続けているものです。

 

また、現在進行中の主な再解析プロジェクトには、以下のようなものがあります。

プロジェクト名

実施機関

対象期間

対象領域

JRA-55

気象庁

19582012

全球

20cr*

NOAA環境予測センター

18912008

全球

CFSRR**

NOAA環境予測センター

19792008

全球

ERA-75

ヨーロッパ中期予報センター

1945?

全球

  * 地上気圧観測のみを用いた、気候変動に焦点を絞った再解析

  ** 大気海洋結合再解析

 

4. どうやって再解析プロダクトを作るの?

 まず、数値予報モデルで短時間予報(一般には6時間)をやって、予報値を作ります。予報値には誤差がありますから、観測値を使って、コンピュータ上で修正します。数学的に言えば、以下のようになります。まず、神のみが知る真値がありますが、神でない人間には分かりません。この誤差の時空間的な積算値を計算し、その積算誤差が最小になるように、人類が知り得る疑似真値を求めます。つまり、私達が知りうる「真値に最も近い(と思われる)状態」を求める訳です。予報値は世界中あらゆる地点で定義できますが、観測は等間隔には存在しないし、空白域もあります。データ同化では、観測が存在する場所の予報値を修正することで、観測が存在しない場所でも物理法則を満たすように修正が行われます。従って、観測がないところでも「当たらずとも遠からず」の解析値が作られます。このような計算過程をデータ同化といいますが、データ同化の結果として作られた「疑似真値」が再解析プロダクトです。再解析プロダクトは、水平・鉛直の3次元格子状に、気温・風などの数値が格納されていて、大気・海洋の力学的・熱力学的状態を定量的に表しています。

 こうやって、短時間(6時間が一般的です)のデータ同化を何十年間も繰り返して長期間のプロダクトを作り上げるのが再解析です。何十年間ものプロダクトがあれば、いろんな物理量の平年値を計算でき、平年偏差が計算できます。私たちになじみの深い平年値・平年偏差と言えば気温が上げられますが、再解析プロダクトを使えば、気温以外にも、高気圧・低気圧の強さや偏西風などいろいろな物理量の平年値・平年偏差が地球上のありとあらゆる場所で計算できます。

 

(補足)もっとデータ同化を掘り下げて知りたい人には

 では、「積算誤差が最小」になるようにするには、いったいどんな事をしているのでしょう? 以前は、最適内挿法と呼ばれる方法が使われていました。最適内挿法では、データ同化に入力出来る観測値は解析変数(気温や風、湿度など)のみに限られていますが、反面計算資源をあまり必要としないので、コンピュータがまだ速くなかった時代には主流の同化方法でした。その後、コンピュータの高速化に伴い、複雑な計算が可能となり、変分法の利用が活発になりました。10年ほど前からは、3次元変分法により、解析変数以外の物理量(たとえば、可降水量や気象レーダーの反射強度など)もデータ同化システムへの入力が可能になりました。さらに、最近では3次元変分法を一歩進めた4次元変分法が実用化され、「積算誤差が最小」にする際に物理法則も考慮されています。たとえば、強い風の観測を同化した場合、4次元変分法は熱帯では台風を作りますが、温帯では前線を伴った温帯低気圧を作るのです。さらに進んだ同化手法として、アンサンブルカルマンフィルターが実用化を目指して開発されています。