「環境における人工放射能の研究2015」について


気象研究所では、1954年以来、大気及び海洋の環境放射能の研究を実施してきました。特に人工放射性核種の降下量を60年余りの長期にわたり、東京・つくばで精密測定してきました。この観測は、世界でも最長の定点観測です。このモニタリング観測の期間では、1950年代から1960年代にかけては、旧ソ連や米国等による核実験が行われ、また、その後も1986年には旧ソ連のチェルノブイリ原子力発電所の事故が発生するなどがありましたが、この観測によって、それらの影響を含めたバックグラウンドの人工放射性核種の長期的変動を明らかにし、国民の安全・安心に寄与してきました。2011年には不幸にして東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所事故が発生し、それによって放出された放射性核種の推移を調査するという課題も担うこととなりました。今後も長期的視点で、人工放射性核種の変動を監視する必要があります。

この研究によるこれまでの観測や解析から、核実験や事故などによる一次放出に加え、長期的変動に対しては、一旦地面などに沈着した人工放射性核種が、風送、燃焼、植物などの働きにより空気中へ再飛散する過程が重要であることが明らかになりつつあります。このような変動メカニズムを正しく理解するためには、長期的観測に加えて、数値計算モデルを用いた解析が必要です。気象研究所では、気候変動や降水予測の研究のため、大気中の微粒子の動きを表現する数値モデルを開発してきましたが、そのような数値モデルを利用して、バックグラウンド放射能の変動メカニズムを解析する研究にも着手しています。

本論文集「環境における人工放射能の研究2015」は、その研究成果を、関係省庁の担当者の方々及び大学や試験研究機関の研究者の方々に広く周知するために、福島原発事故後二年から現在までの期間に出版された論文(主に英語論文)を、過去から現在までの成果と最近のトピックスに関するテーマ毎に分類し、各テーマの冒頭に簡単な日本語の解説を加えて、 一冊にまとめたものです。
 なお、この研究は文部科学省および原子力規制庁放射能調査研究費により実施されています。

平成28年8月

気象研究所 研究総務官   齊藤  和雄



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