ISSN 1348-9739

 

Artificial Radionuclides in the Environment 2003

環境における人工放射能の研究2003

Temporal variation in the monthly 90Sr and 137Cs

depositions observed at MRI since 1957

Geochemical Research Department

 Meteorological Research Institute JAPAN

January 2004

気象研究所 地球化学研究部

 


 

 

気象研究所地球化学研究部では、1954年以来、環境放射能の観測法の開発、放射能汚染の実態の把握、大気や海洋における物質輸送解明のトレーサーとしての利用を目的として環境放射能の研究を実施してきた。1957年以降、原子力及び放射能に関する行政は科学技術庁が所管することとなり、各省庁がそれぞれの所掌で実施してきた放射能関連業務は放射能調査研究費によって統一的に実施することとなった。2001年の省庁再編に伴い、現在は文部科学省が所管している。地球化学研究部では、環境中の人工放射性元素の分布とその挙動を40年以上にわたって観測・研究しており、このような長期にわたる観測・研究の蓄積の結果、環境放射能について世界的にも他に類を見ない貴重な時系列データを内外に提供すると共に、様々な気象学・海洋学的発見をもたらしてきている。

 195431日に米国によりビキニ環礁で行われた水爆実験により、危険水域外で操業していた第5福竜丸乗組員が放射性物質を含む降灰(いわゆる死の灰)による被曝を受けた事件を契機にして、日本における環境放射能研究が本格的に始まった。地球化学研究室は、当時から環境の放射能を分析・研究できる日本有数の研究室であり、三宅泰雄の指導の下、海洋及び大気中の放射能汚染の調査・研究に精力的に取り組んだ。その結果、当時予想されていなかった海洋の放射能汚染、さらには大気を経由しての日本への影響など放射能汚染の拡大の実態を明らかにすることができた。1958年から放射能調査研究費による特定研究課題の一つである「放射化学分析(落下塵・降水・海水中の放射性物質の研究)」を開始し、札幌、仙台、東京、大阪、福岡の5つの管区気象台、秋田、稚内、釧路、石垣島の4地方気象台、輪島、米子の2測候所の全国11気象官署及び気象研究所(気象研究所では19574月から)で採取した降水・落下塵(一ヶ月の全量)及び観測船で採取した海水中の90Sr137Cs、プルトニウム同位体等の放射性核種分析を実施してきた。

 大気中の人工放射性物質の主要な放出源であった大気圏核実験については1962年の「部分的核実験禁止条約」の締結、その後の中国とフランスによる大気圏核実験も198010月の中国による大気圏核実験を最後として行われていない。しかし、19864月にチェルノブイリ原子力発電所で事故が起こり、世界規模の放射能汚染を引き起こした。その後も極めて小規模ではあるが、19973月の動力炉核燃料開発事業団"アスファルト固化処理施設"の火災・爆発事故や19999月のJCOウラン燃料工場の臨界事故により放射性物質が環境中へ放出された。一方、日本周辺海域では、ロシア(旧ソ連)による放射性廃棄物の海洋投棄が公表されている。このように環境の放射能汚染は過去の問題ではない。従って、引き続き環境放射能調査研究は必要である。

20014月(平成134月)からは文部科学省放射能調査研究費による特定研究課題として「大気圏の粒子状放射性核種の長期的動態に関する研究」,「大気中の放射性気体の実態把握に関する研究」及び「海洋環境における放射性核種の長期的挙動に関する研究」の3課題で環境放射能研究に取り組んでいる。また、近年諸外国や国内の研究機関との協同研究も進展している。また、当研究部を含め世界で得られた降下物と海水中の放射性核種については、現在データベースを作成中であり、近い将来Web site等から公開される予定である。

 今回わたしたちが実施してきた環境放射能研究に関する最新の成果を過去の研究の歴史と合わせて取りまとめ今後の研究の発展の基礎として活用を計るため、論文集(200312月版)を作成した。掲載した12の論文は、過去の一連の研究成果から最新の成果までの主なものを一冊でカバーできるように選択されている。本論文集が環境放射能研究や環境放射能影響評価の基礎資料として広く活用されることを期待している。

 

    20041

 

            気 所 地

 


 

 

Last Update May 31, 2005
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