3.茨城県つくば市における大気中の放射性希ガスの観測

 

 気象研究所では、大気中濃度の監視とそのトレーサー利用とを目的として、全球にモニタリングネットを展開しているドイツ大気放射能研究所(BfS-IAR)から協力を受けて、国際的にも評価の高いBfS-IAR方式を導入し、協同して大気中の85Kr及び133Xeの大気中濃度(一週間平均値)の観測を継続している。19955月から始まったこの観測では、つくばで採取した試料が毎週ドイツに送付され、BfS-IARにおいてKr/Xeの分析が行われてきた。観測当初の、1995年から1997年までの3年間、春と秋にはつくばでの85Kr濃度が通常よりも1桁上昇するのが認められた。この濃度上昇は東海核燃料再処理工場の操業により85Krが大気中に放出されたことによるのだが、もうひとつの要因-主風向の季節変化-があり、このような季節変化に類似した変動を示すことがわかった。このことをできるだけ定量的に考えるため、再処理工場からの85Kr日放出量と気象データを用いて簡単なモデルにより解析したところ、計算値と観測値はよく一致することが明らかとなった。

 19973月以降の期間は、再処理工場は休止していたため、観測された85Kr濃度は他の北半球中緯度(北緯3040°)地点での観測値(およそ1.3Bq/m3)と同様にバックグラウンド値となっていた。その後、再処理工場は20006月から操業を断続的に開始し、20013月から本運用を再開した。これに伴う大気中85Krの濃度増加が、再び観測された。

再処理工場休止期間以外のバックグラウンド濃度は、東海村からの影響と推定される観測値を除いたものである。このようにして求めたバックグラウンド濃度は時間の経過とともに徐々に増大しており、夏に低く、冬に高いという季節変動を示した。関数フィッティングにより求めた1995年から2002年までの年間濃度上昇率はおよそ2.3%で、ヨーロッパの観測地点で得られたデータとほぼ同じであった。このことは、核燃料再処理からの放出により全球的な85Kr濃度上昇が依然として続いていることを示している。

 なお19999月末のJCO臨界事故の際には緊急モニタリングを行ったが、つくばでは、有意な濃度上昇を認めなかった。

 放射性希ガスの観測は分析方法等の困難点もあり、日本での取組は少なく、1990年代当初には大気中バックグラウンドレベルの85Kr濃度を連続して測定しうる観測装置は存在しなかった。このため1995年より気象研究所では上記の観測と平行して、BfS-IAR方式に基づく85Kr観測装置の開発に取り組んできた。その結果、19996月に装置が完成し、その後行われた実試料によるBfS-IARとの比較試験により、ほぼ6%以内で双方の分析値が一致することを確認した。

 

 

〔掲載論文〕(Full texts are not available online, please contact the authors for reprints.)

Igarashi. Y, M. Aoyama, K. Nemoto, K. Hirose, T. Miyao, K. Fushimi, M. Suzuki, S. Yasui, Y. Asai, I. Aoki, K. Fujii, S. Yamamoto, H. Sartorius, W. Weiss, 85Kr measurement system for continuous monitoring at Meteorological Research Institute, Japan, Journal of Environmental Monitoring, 3, 688-696, 2001 (Abstract)

 


85Kr concentration observed at MRI, Tsukuba during 1995 to 2003

 

 

Background 85Kr concentration observed at MRI, Tsukuba during 1995 to 2003