分析機器について

エアロゾルの研究には様々な分析機器が使用されます。ここでは当研究室で用いられているエアロゾルの分析機器と分析内容について紹介します。

電子顕微鏡

多くのエアロゾル粒子は1マイクロメートル以下の大きさで、光学顕微鏡で観察することは困難です。そこで、電子顕微鏡を用いて分析することによって、個々の粒子のさまざまな特性を研究することができます。光学顕微鏡(ルーペや虫眼鏡なども含む)は光を使ってものを拡大するのに対し、電子顕微鏡とは電子線を使って観察する装置です。光線に比べ電子線は波長が短く、より小さな物が観察でき、理論的には原子レベルまで観察することが可能です。また、電子線と対象試料との干渉作用により、その組成や結晶構造、また化学結合状態など様々な情報を得ることができます。

透過型電子顕微鏡 (Transmission electron microscopy ; TEM)
走査型電子顕微鏡 (Scanning electron microscopy ; SEM)

TEM SEM

TEM(JEM-1400)(日本電子(株)製)(写真左)とSEM((株)日立製作所製S-2150)(写真右)。

電子顕微鏡は大きく分けてTEM(テム)とSEM(セム)の2種類があります。その大きな違いは、TEMは試料を透過した電子線を直接蛍光板やCCDカメラに投射するのに対し、SEMは細く絞った電子線を試料表面で走査させ、その2次電子や反射電子を検出器で検知することで画像を得ることができます。TEMでは、透過した電子を使うことで、1)試料内部の構造が分かる、2)より高い分解能が得られる、といった利点があります。TEMは試料中を電子線が透過する必要があるため、試料を薄く、また、より高電圧、高真空にする必要があります。そのため、機器自体もSEMに比べ高額化、大型化します。また、TEM操作は電子線の軸を真っ直ぐにし、焦点を厳密に合わせる必要があるため、操作がやや難しいです。一方、SEMでは2次電子を用いることで、試料の表面の状態を比較的簡単に分析することができます。弱点としては、2次電子線の広がりがあるため、TEMほど高倍率(高分解能)の観察はできず、また得られる情報も試料表面近くに限定されます。TEMとSEMはそれぞれの特性を見極めたうえで上手に使い分ける必要があります。 エアロゾル分析に関しては、1マイクロメートル以下の粒子の内部構造を観察するにはTEMを、それ以上の大きさの粒子を観察するにはSEMを使うなどの使い分けが行われます。

走査透過電子顕微鏡法 (Scanning transmission electron microscope ; STEM)

STEM

TEM(JEM-1400)に取り付けられたSTEMの検出器。

STEM(ステム)はTEMの一種ですが、結像にはSEMと同じく細く絞った電子線を走査させて行います。SEMとの違いは、SEMが試料の上部から2次電子線を検出するのに対し、STEMでは試料下部の検出器で試料を透過した電子線を検出します。特に、暗視野像(Dark-field image)用の検出器を用いることで、原子番号の重たい元素ほど明るく表れる像(Z-contrast)が得られ、ナノオーダーの極小領域に複数の物質が混在した試料の境界面を表すことができます。エアロゾル粒子分析の場合、個々の粒子中に混合した数種類のエアロゾルの区分が可能になります。

エネルギー分散型蛍光X線分析法 (Energy dispersive X-ray spectrometer ; EDS or EDX)

TEMのEDS SEMのEDS

TEM(JEM-1400)のEDS(写真左)とSEM(S-2150)のEDS(写真右)。

EDS(イーディーエス)とは、対象試料中の化学組成を検出・分析する付属装置です。SEM・TEMの両方に用いられます。電子線が試料を構成する元素にあたることによって生じる特性X線を検出して、その組成を決定します。ベリリウム(Be)以下の軽元素は、多くの場合検出できません。元素の検出には、概ね数十秒電子線を試料に当て、そこから発生する特性X線を積算します。EDS分析においては、一度に原子番号ホウ素以上のほぼすべての元素を検出することが可能です。TEMにおける定量分析には、標準物質と同等の試料厚、電子線強度、照射時間、結晶構造などが必要とされ、エアロゾル分析において定量値を求めることは困難です。そこで、ZAF法などの理論計算定量値が使われることがあります。この定量は、検出された複数の元素から得られたEDS強度比より、その元素特有のEDS発生強度、吸収などを考慮し、計算的に求める方法です。EDS分析の検出限界値はおおよそ0.1-1重量%程度です。電子線のビーム径が分析エリアですが、SEMの場合は試料内部で約1マイクロメートルほど広がりを持つため、その分空間分解能は下がります。

CCDカメラ (Charge coupled device ; CCD)

TEMに付随の装置で、画像撮影に使います。CCDカメラの性能は画素数(例えば1000X1000)、視野領域(広いか狭いか)、感度(弱い電子を検知するかしないか)、強い電子線によって焼けないか、などによってきます。CCDカメラは強い電子線を当て続けると、不可逆的に像が焼付くので注意が必要です。

電子線回折 (Electron Diffraction ; ED)

電子線回折例

電子線回折例。白いスポットが回折された電子線を示す。中央の大きなスポットは回折されずに通過した電子線像。

TEM試料中を通過する電子線は結晶性を持つ試料との回折作用によって散乱します。その散乱電子の広がりは結晶格子面間隔に依存するため、電子線回折法ではその広がりを測ることによって結晶を特定します。エアロゾル粒子の場合、鉱物粒子の組成と電子線回折の情報によって、その鉱物種が決定できます。

電子線トモグラフィ法 (Electron tomography ; ET)

すす粒子の電子線トモグラフィ像

すす粒子の電子線トモグラフィ像。全体は1マイクロメートル程度の長さで、複雑な形態をしている。

電子線トモグラフィ法は、TEM中で試料をさまざまな角度に傾斜させ(通常±70°)、その画像をコンピュータ計算で3次元に再構築します。とくに、すすなどの複雑な形態の粒子に用いることによって、その大気寿命や光学特性などを推定することができます。

特殊試料ホルダ (Cryo & heating holders)

TEM試料ホルダ

TEM(JEM-1400)の試料ホルダ。

TEMやSEMにおいて、試料を固定するホルダを加熱または冷却することによって、試料の温度特性を観察することができます。冷却材に液体窒素を使用した場合、マイナス170°C程度にまで冷却が可能です。また、加熱する場合には1000°C以上に加熱することも可能です。温度を変化させるときには、金属の熱膨張によって生じるドリフト(観察中における試料の移動)に注意する必要があります。エアロゾル粒子では、冷却することによって電子線ビームダメージを抑える効果があります。また、加熱することで、揮発性エアロゾルの温度特性を分析することが可能です。

イオンクロマトグラフ(Ion Chromatograph; IC)

イオンクロマトグラフ (Ion Chromatograph ; IC)

IC装置

当研究室のIC装置(日本ダイオネクス(株)製ICS-1100)

エアロゾル粒子には自動車の排気ガスや工場などから発生した硝酸イオン、硫酸イオン、塩素イオン、アンモニウムイオンなどを含みます。これらのエアロゾル粒子は光化学スモッグや酸性雨などの原因の一つになっていると考えられています。

これらのエアロゾル粒子が私達のまわりにどれだけ存在し、環境にどのような影響を与えているのか、ということを知るために当研究室では主にICという方法を用いて分析を行っています。

ICは、イオンの種類によって、イオン交換樹脂との結合力が異なることを利用して、試料溶液に含まれるイオンの量を測る分析方法です。ICは、大気中のエアロゾルに含まれる様々な種類のイオンを精確に分析できます。ICを用いたエアロゾルの分析では、まずフィルターで大気中のエアロゾルを集めて、それを蒸留水に溶かして測定を行います。

エアロゾル粒子の大きさと濃度

エアロゾル捕集管  

当研究所の屋上に設置されているエアロゾルを取り込むための管。各計測機器やエアロゾルの試料を捕集するフィルターにつながっている。

イオンクロマトグラフなどによってエアロゾル中のイオン成分の濃度などの情報に加え、エアロゾルがどのように太陽の光を散乱したり吸収したりするか、またどのように雲を形成するかを知ることも、エアロゾルの気候・気象影響を知るうえで重要になります。そのため、エアロゾル粒子の大きさ(粒径)や形などの性質も分析しています。エアロゾルの大きさや形は電子顕微鏡などで拡大して直接観察することでわかります。しかしながら、電子顕微鏡では一つ一つの粒子について精確な大きさと形を知ることを得意としますが、空気中に大量に存在するエアロゾルの中に、どれくらいの大きさの粒子が何個含まれているかを知ることは苦手とします。そのため、まずエアロゾル粒子の大きさを空気力学粒径(Aerodynamic diameter)、電気移動度粒径(Electrical Mobility diameter)、光学粒径(Optical diameter)という物差しを使って測ります。そして、光散乱式粒子計数器(Optical Particle Counter; OPC)や凝縮核計数器(Condensation Nucleus Counter; CNC)と呼ばれる装置を使用してエアロゾル粒子の個数を大きさごとに数えます。

空気力学粒径 (Aerodynamic diameter) による分粒-Aerodynamic Particle Sizer (APS) TM

APS

当研究室のAPS(TSI社製TSI-3321 Aerodynamic Particle Sizer)

空気中に漂うエアロゾル粒子はポンプを使って加速させると、空気の抵抗を受けて減速し、やがて止まります。ここで、エアロゾル粒子がどのように減速するかは、粒子に働く空気抵抗と慣性によって決まるため、粒子の大きさ、重さ、形によって変わります。これを利用して測られるエアロゾル粒子の大きさが空気力学粒径(Aerodynamic diameter)です。当研究室ではAPSという機器を用いて、0.5~20マイクロメートルのエアロゾル粒子を粒径ごとに計数をして観測を行っています。

電気移動度粒径 (Electrical Mobility diameter) による分粒-微分型移動度分析器 (Differential Mobility Analyzer ; DMA)

DMA

当研究室のDMA(TSI社製TSI-3080 Electrostatic Classifier)

エアロゾル粒子を荷電させて、電場のかかった空気中を移動させると、その軌跡は粒子に働く空気抵抗によって決まるため、粒子の大きさ、形に依存します。これを利用して測られるエアロゾル粒子の大きさが電気移動度粒径(Electrical Mobility diameter)といいます。当研究室ではDMAという機器を用いて、10~1000ナノメートルのエアロゾル粒子を分粒して観測を行っています。

光学粒径 (Optical diameter) による分粒(Optical Particle Counter ; OPC)

エアロゾル粒子に当たって散乱された光の強度は、粒子の大きさなどによって異なります。これを利用して測られるエアロゾル粒子の大きさが光学粒径です。

エアロゾル粒子に光が当たると、粒子の数だけ光が散乱されたり吸収されたりします。この散乱された光の数を数えることによって、エアロゾル粒子の計数を行うのがOPCです。OPCは0.1~10マイクロメートル程度の粒子の散乱された光の強度を測ることによって、光学粒径も同時に測る事ができます。

凝縮核計数器 (Condensation Nucleus Counter ; CNC)

CNC

当研究室のCNC(TSI社製TSI-3775 Condensation Particle Counter)

エアロゾル粒子は過飽和の気体(湿度が100%より高い状態)の中にあると、粒子の周りに液体がついて一つ一つの粒子が大きくなります。これによって、エアロゾル粒子が雲や霧を発生させる(つまり、エアロゾル粒子の周りに水滴がついて水の塊になり、雲や霧になる)と考えられています。CNCではこの性質を利用して、OPCでは計数が難しかった小さな粒子に、アルコールなどを凝縮させることによってOPCで計数できるくらい大きくして、粒子の計数を行います。CNCを用いると10ナノメートル以下の粒子を計数する事ができ、当研究室ではDMAで分粒したエアロゾル粒子をCNCで計数するなどの測定を行っています。