エアロゾルについて

エアロゾルとは

大気エアロゾルの定義

大気エアロゾル粒子とは、空気中に浮遊する固体や液体の粒子をいいます。その大きさは目で見える数ミリメートルの砂塵から数ナノメートル(原子の大きさの数十倍)にも及びます。その数は非常に多く、ヒトの一呼吸で数百万個のエアロゾル粒子が肺に入り、その一部は体内に取り込まれます。エアロゾル粒子は、地表からの巻き上げ、海面の波しぶき、工場や自動車の排気などの直接的な放出に加え、大気中でのガスの凝結反応による二次的な生成によって発生します。大気中に浮遊する期間は粒子の大きさや、大気中での高度などによって差があり、大きい粒子だと数分間、1マイクロメートル程度の小さな粒子では1週間近く漂い続け、最後は雨や重力によって地表に落ちてきます。さらに、火山噴火などで成層圏に巻き上げられた粒子は、数年近く漂い続けることもあり、地球気候に大きな影響(特に寒冷化)をもたらします。

大気中に漂うエアロゾル粒子は、偏西風などによって時に数百から数千キロメートルにわたり流され、地球上のいたるところに拡散します。その、輸送過程で、それぞれのエアロゾル粒子は周囲の別のエアロゾルとぶつかり合い、またガスや水蒸気などが表面に凝結することによって複雑な組成、形態を持ったものへと変化していきます。この形態、組成が変わっていくことによって、エアロゾルの気候影響も変化します。そのため、個々のエアロゾル粒子を詳細に観察し、その変化過程(エイジング)を明らかにすることが重要となります。

環境・気象への影響

衛星画像

(図1)衛星から見た雲の画像。雲は宇宙から見ると、白く光って見える。これは、雲が太陽光を反射して地球に入射するはずだった太陽光を戻す、つまり寒冷効果をもたらす。http://www.jma.go.jp/jp/gms/

呼吸によって体内に入ったエアロゾル粒子の多くは、人体にとって影響がほとんどないものですが、よく調べてみますとごく一部に健康に悪影響をもたらすものも含まれることがあります。また、大気中に浮遊するエアロゾル粒子は、一つ一つの粒子が、太陽光を散乱または吸収し、地球規模において気候の温暖化、または冷却化効果をもたらし、気候・気象に大きな影響を与えます(図1)。地表付近では、エアロゾルの光散乱吸収によって、かすみなどの現象が起こります(図2)。さらに、エアロゾル粒子は雲を形成する核となって、雲の成長を促します。

エアロゾルの光散乱・かすみなし エアロゾルの光散乱・かすみあり

(図2)かすみでない日(左)とかすみの日(右)を比べた写真。遠くに見える山が、大気中に浮遊するエアロゾルの光散乱によって見えにくくなっている。写真はカリフォルニア工科大学で2010年に行われた大気汚染調査プロジェクトCalNexキャンペーン時に撮影。

以上の現象は、エアロゾル粒子の種類、大きさ、濃度によって大きく変わります。そのため、気候影響に関して、エアロゾル粒子の種類によって、温暖化効果をもたらすことも冷却化効果をもたらすこともあります。よって、一つ一つのエアロゾル粒子のさまざまな特性を分析することは、その影響を知るうえで非常に重要になります。当研究室では、特に電子顕微鏡という機器を使い、ヒトの目では見ることができない1マイクロメートルかそれより小さなエアロゾル粒子を何万倍にも拡大し、その内部の組成や形態を分析しています(図3、4)。その結果は、気候モデルなどに組み込むことによって、さらに詳細なエアロゾル粒子の気候・気象影響、また、その排出や削減が地球気候にあたえる影響などを明らかにすることができ、国の政策や排出規制の効果がどのような効果をもたらすかを知る重要な判断材料となります。

電子顕微鏡画像

(図3)オーストラリア上空で採取されたエアロゾル粒子の電子顕微鏡画像。黒い部分がエアロゾル粒子で、フィルター上に捕集。Okada et al. (2005 Atmospheric Environment).

電子顕微鏡画像

(図4)北大西洋上で採取されたエアロゾル粒子の電子顕微鏡画像。小さめの矢印はすす粒子を、大きめの矢印はシリカの球状粒子を示す。その他の泡だったような粒子はアンモニウム硫酸塩。
Li et al (2003, JGR).

エアロゾルの種類

エアロゾル粒子は、その組成、形態、微小構造などからいくつかの種類に分類できます。それぞれのエアロゾル粒子は、異なった発生源・プロセスを持っており、その気候や人の健康に対する影響も異なります。以下に代表的なエアロゾル粒子の紹介をします。

すす(soot)

すすとは主に化石燃料や植物燃料などを燃やしたときに発生する黒色の煙となる粒子です。
すす粒子は光を吸収する効果があり、地球温暖化に寄与すると考えられています。すす粒子は黒色炭素(ブラックカーボン;BC)や元素状炭素(エレメンタルカーボン;EC)とも呼ばれますがその構造は、グラファイト(黒鉛)様炭素からなる直径20から50ナノメートル程度の小球粒子が100個前後凝集した形(下図・右)をしており、鎖状やブドウの房状とも形容されます。特にすす粒子は、1)光を吸収すること、2)複雑な形態(大きな表面積)をもつこと、3)大気中で固体として存在すること、などの特徴をもち、気候や他のエアロゾル性質に影響を与えます。透過型電子顕微鏡で観察した時には、微粒子が凝集した形態が特徴的で、その多くは他のエアロゾル粒子に覆われていたり、くっついていたりしています。すす粒子を構成する粒子がお互いにくっついて小さな塊となっているか、また逆に大きく開いているか、といった形態などもすす粒子の光吸収特性に影響を与えます。その組成は、炭素を主成分とし、発生源やその後の他のエアロゾル粒子との混合に応じて酸素、 硫黄、カリウム、ケイ素などを微量に含むことがあります。

当研究室では、すす粒子が1)どのように他のエアロゾル粒子と混合しているか、2)その混合がどのようなプロセスによって行われたか、3)その混合した状態がどのように気候に対して影響を与えるのか、などを電子顕微鏡や大気モデルを用いて研究しています。

グラファイト様炭素の小球粒子 小球粒子の集合

すす粒子の電子顕微鏡画像。左はグラファイト(黒鉛)様炭素からなる直径20から50ナノメートル程度の小球粒子。右はそれが100個前後凝集した形。

硫酸塩(sulfate)

アンモニウム硫酸塩の電子顕微鏡画像

アンモニウム硫酸塩の電子顕微鏡画像。左上の電子線回折はこの粒子がアンモニウム硫酸塩であるというパターンを示す。矢印で示した部分にはすす粒子が付着している。
Buseck and Posfai 1999 (PNAS).

硫酸塩は硫酸イオン(SO42-)を陰イオンに持ったエアロゾル粒子の総称です。化石燃料や火山ガスに含まれる硫黄成分から生じた酸化硫黄(SO2)から生じます。主に、大気中での凝集、雲粒の中での反応、また海水から大気中に放出などの過程を経てエアロゾル粒子となります。その硫酸(H2SO4)の多くは、アンモニアと結合し、硫酸アンモニウム((NH42SO4)として大気中に存在します。ほとんどの硫酸塩エアロゾル粒子は水に溶けやすく、潮解性を示すため、雲粒子の核となります。硫酸塩エアロゾルは光を散乱する性質もあり、地球寒冷化に対する効果が大きいです。電子顕微鏡で観察すると、硫酸塩エアロゾル粒子の多くが結晶として存在することが分かります。また、硫酸塩エアロゾル粒子は強い電子線ビームによってダメージを受けやすく、電子顕微鏡観察中に泡立ったようになります。発生源によっては窒素やカリウム、ナトリウムなどを含むことがあります。他のエアロゾル粒子と混合することで、その付着したエアロゾル粒子の吸湿性を上げるなどの効果をもたらすことがあります。

有機エアロゾル(Organic aerosol)

ターボールの電子顕微鏡画像

野焼き(バイオマス燃焼)中の煙から発生したターボールの電子顕微鏡画像。試料はメキシコから採取された。Adachi and Buseck, 2010 JGR.

有機エアロゾル粒子は炭素原子の結びついた化合物(有機物)を主体とし、その多くは発生源の近傍や大気中での反応による有機成分ガスの凝集によって生じます。そのため、大気中の光化学反応や有機成分ガスの濃度・揮発性によってガス-液体-固体とその物理状態は変化します。有機エアロゾルの素となる有機ガスは、植物や化石燃料、野焼きからの煙など多岐にわたります。その主成分は炭素と酸素で、有機構造の種類は非常に幅広く、また酸化作用などによって時々刻々と変化していきます。そのため、その気候に対する影響を見積もることは難しく、個々のエアロゾル粒子も、光を吸収するもの、散乱するもの、雲の形成に寄与するもの、しないものと様々で、それらの詳細な存在量や特性を知ることが重要です。電子顕微鏡を使った分析では、有機エアロゾルの多くが他のエアロゾル粒子(例えばすすや硫酸塩エアロゾル)の表面に凝結している様子が見えます。また、ターボール(Tar ball)と呼ばれる野焼きや(バイオマス燃焼)植物性燃料から生じる真球状の有機エアロゾルなども観察できます。 有機エアロゾル粒子は、大気中でもっとも存在量が多いものの、未解明の部分も多くあり、その研究は現在のエアロゾル研究にとってとても重要なものとなります。

硝酸塩エアロゾル(Nitrate)

硝酸塩(NO3-)は自動車排気ガスなどに含まれる窒素酸化物が光化学反応や大気中のオゾンとの反応によって発生し、大気中ではアンモニアや鉱物粒子、また海塩などと反応し、エアロゾル粒子となります。その発生は、太陽光や大気湿度などに大きく影響を受けます。硝酸塩エアロゾルは雲の形成核としても働きます。硝酸塩エアロゾルは電子顕微鏡を使った分析では、その高い揮発性やその主成分である窒素がアンモニア中の窒素と重なってしまうことなどから検出しにくく、十分な分析は進められていません。しかしながら、大気中で豊富にあるエアロゾル粒子の一つであるため、その挙動解明の研究は重要です。

金属(Metal)

金属元素を含むエアロゾルは、都市大気中で比較的多数見つかります。有機エアロゾルや硫酸塩エアロゾルを主成分とし、鉄、亜鉛、鉛などの元素をごく微量に含む粒子です。水銀が数十ナノメートルのエアロゾル粒子として検出されることもあります。宇宙からの隕石のかけらなども金属エアロゾル粒子の一種として検出されます。電子顕微鏡で観察すると、金属結晶を持った球状の微小金属粒子や、板状の鉄粒子など様々な形態をしていることが分かります。特に金属粒子の多くは、大量にヒトの体内に入り込んだ時に有害となります。

海塩(Sea salt)

海岸線に現れたもや

海岸線に現れた"もや"。海塩エアロゾルを多く含む。写真はワシントン州の海岸。

海塩粒子は、主に海表面で泡がはじけたかけらや波しぶきなどから発生します。地球表面の多くを海が占めるため、その存在量は大きいです。その主成分は塩化ナトリウム(NaCl)で、マグネシウムや他の元素を微量に含みます。海塩粒子は、都市近傍の汚染空気中で硫酸塩や硝酸塩と反応し、硫酸ナトリウムや硝酸ナトリウムを成分に持つエアロゾル粒子に変化します。海塩粒子は、潮解性があり雲の凝結核になります。電子顕微鏡で海塩粒子を観察すると、結晶面を持った粒子や、液体状の粒子として観察されます。

生物由来(Biological)

ブロッコサム粒子

ブロッコサム粒子。粒子径は約300ナノメートル。カリフォルニアで採取されたエアロゾル試料より見つかる。

生物由来エアロゾルは、大きいものでは花粉、小さなものではバクテリアなどがあります。ブロッコサム(Brochosome)と呼ばれるヨコバイ(バッタに似た昆虫)から発生する1マイクロメートル以下のエアロゾル粒子もあります(写真)。その種類は多様ですが、粒径は他のエアロゾル粒子と比べると10マイクロメートル前後と大きめです。成分は主に炭素と酸素です。電子顕微鏡観察では、それぞれの粒子は非常にユニークな形をしており、形態からその種類を推定することができます。

鉱物(Mineral dust)

鉱物粒子は、主に砂漠や土壌の地表面から風によって巻き上げられた砂からなります。黄砂粒子もこの鉱物エアロゾル粒子の一部です。多くはケイ素と酸素を含むケイ酸塩鉱物です。鉄を含み、光を吸収する性質を持つ赤鉄鉱(ヘマタイト)は、地球温暖化に寄与します。鉱物粒子の多くは、10マイクロメートル以上の大きさを持つものですが、1マイクロメートル以下の鉱物粒子もあります。電子顕微鏡では、鉱物の結晶構造からその鉱物を特定することができます。

竜巻によって巻き上げられる鉱物粒子

竜巻によって巻き上げられる鉱物粒子(写真上下に帯状に見える)。メキシコで撮影。